金星に、願いを

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「…こんな感じだけど、満足した?」家に帰った私は、保護者面談の一部始終を、娘に聴かせている。ボイスレコーダーで録ったのだ。 「まあね」そして、少し経って娘は言った。 「…大丈夫だよね」 「何が?」 「このまま、しばらく学校に行かなくても」 「大丈夫だよ。それに、パパは不登校だったんだよ」 「え!そうなの⁉︎」 「それでもね、家にいる間に何か勉強だったり、将来の役に立つことをしなきゃいけないけどね」 「例えば?」 「パパなら、天体のことかな」今、研究室の室長を務めている彼なので、きっとそうだろう。 「私みたいな理由で大丈夫だよね?」 「ああ、『先生が嫌いだから』でしょ?」 「そうだけど」 「別にいいじゃん。邦子も『不登校の人はみんな、そうなった理由が違う』って思うでしょ?」 「もちろんだけど…」 「どうした?」 「ママって、早起きババアとあんまり変わらないね」やっぱりか、あの先生は過去の常識に囚われていたけど、私だって、過去の出来事にまだ怨みを持っている。それは… 「って言うか、なんで『早起きババア』なの?」 「あの人、校長先生の次に早く学校に行くんだって。そんなに早く起きるのは、お婆さんになった人ぐらいらしいからって、私のクラスの男子がそう言ってたから」そもそも、私と『早起きババア』ことテンピーとは、高校、大学の同級生だ。 まず、何故『テンピー』なのかというと、高校時代、『なんで点pが動かなきゃいけないの?止まったままでいいじゃん』と連発してたからで、私以外に言っていた人はいない。 だが、アイツとは大学時代、大喧嘩して、それからずっと会っていない。詳細は封印しておくが、テンピーに会いたくてなくて、学部を変えて、受験し直したほどの争いだった。なので、教育学部から、別の学部へ。そこで天文学と今の旦那に出会った。そして、専業主婦になった。 本音を言えば、私だって、ちゃんと小学校で働きたかった。だが、テンピーとの喧嘩の顛末は旦那には話したくないし、そもそも何処でテンピーが勤務しているのかも、全く知らなかったので、テンピー怖さに、小学校の先生になれなかった。今では只の小五の娘を持つ主婦だ。大学院にだって、彼と一緒にいたかっただけで、そこまで天文学は好きではない。 過去に怨みを持っている、その点では、テンピーと全く変わっていない。今でも、『アイツばかり金を稼いで、私なんて、ワタシナンテ…』といった夢を見ることがある。 だからこそ、娘には、立派な人に育って欲しい。それも、月のように輝く道だけではなくて、金星ぐらいでもいい。満ちなくても大丈夫、少し光る、それだけで、幸せにはなれる。パパみたいになる、そのほうが嬉しいかな。 それともうひとつ、四十ちょっと過ぎの人に『ババア』は失礼だよ。
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