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【いちじゅうまる】美帆
淡いピンクのストールが、立ち並んだ飲食店のネオンサインでカメレオンのように変化する。赤い顔をした中年男性とすれ違いながら目的地に一歩近づくたび、わたしの足に活力が漲ってくる。
「おーい、早く」
振り返って、数メートル後ろを歩く同僚二人に手を振ってみる。けれども彼女たちはいたってマイペース。同期入社で七年の付き合いになる聡子は一向に歩みを速めようとはしないし、先月入社してきたばかりの優宇は意味を取り違えているのか、嬉しそうに手を振りかえしてくる始末だ。
「急がないと席なくなるよ。後から課長も来るんだからね」
急かしても、聡子のすまし顔にはなんの変化も見られない。
これから優宇の歓迎会だ。本来なら指導担当の聡子が企画するべきだけれど、二週間経っても何もなし。見かねてわたしが動いたのが気にくわなかったのか、非協力的だ。
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