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「おごられる意味がわかんないし」
釈然としないようすで、333がカードだらけの財布から千円札を数枚取り出した時、黒スーツが眉間に皺を寄せた。それから盛大なため息をついて333を見つめる。薄い唇がおもむろに開いた。
「結婚祝い」
「えっ」
呆然としている333を放置して、黒スーツは「おっさん、会計」と私を急かした。
「ありがとう、聡子」
333は黒スーツの背中に向かって頭を下げた。するとこの店を訪れてから、口角を上げることすらなかった黒スーツが急に笑った。
私は困惑した。ありがとうは人から笑われるような言葉ではなかったはずだ、と。
「なに納得してんの、これっぽっちで。金ないみたいだし『ご祝儀よこせ』くらい言われるかと思ったわ」
気性の荒い333は怒り出すかと思ったが、なぜだか唇を噛みしめながら、目に雫をためている。
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