【よんじゅうまる】店員

2/3
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「おごられる意味がわかんないし」  釈然としないようすで、333がカードだらけの財布から千円札を数枚取り出した時、黒スーツが眉間に皺を寄せた。それから盛大なため息をついて333を見つめる。薄い唇がおもむろに開いた。 「結婚祝い」 「えっ」  呆然としている333を放置して、黒スーツは「おっさん、会計」と私を急かした。 「ありがとう、聡子」  333は黒スーツの背中に向かって頭を下げた。するとこの店を訪れてから、口角を上げることすらなかった黒スーツが急に笑った。  私は困惑した。ありがとうは人から笑われるような言葉ではなかったはずだ、と。 「なに納得してんの、これっぽっちで。金ないみたいだし『ご祝儀よこせ』くらい言われるかと思ったわ」  気性の荒い333は怒り出すかと思ったが、なぜだか唇を噛みしめながら、目に雫をためている。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!