【にじゅうまる】聡子

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【にじゅうまる】聡子

 この騒がしい店は、いったい何なのだろうか。高揚してオーダーを重ねる美帆を見ながら、わたしはため息を飲み込んだ。  溢れんばかりに盛られたもやしナムルには彩りのかけらもないし、皿の中で五重丸を作っているイカリングは明らかに冷凍食品出身で、百五十円の価値すら疑わしい。料理は悪い意味でごじゅうまるだ。  今日も特別に安く飲食できているのだと、勘違いして浮かれている美帆の頭もおめでたい。会員カードなど作らされて、店の思うつぼだ。  満席で入店を諦める客を見るたびに「急いで来て良かったでしょ?」と美帆は得意げだが、それもひとりよがりだ。慣れない仕事で疲れ切っている優宇を、夜まで引っ張るなんて気遣いがない。  ゆっくり休ませてあげるという考えもなければ、プライベートを重視した生き方があることも考えたことがないだろう。美帆は昔から、他人に対する想像力が欠けている。
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