6人が本棚に入れています
本棚に追加
「きん、きん、金曜日~♪、きんきん金曜日~♪」
訳のわからない歌をテンポ良く口ずさみながら、同僚の高柳彩夏は出社してきた。
訳がわからないというのも、今日は月曜日だからだ。
今日が金曜日であるなら、まだわかる。
だが今日は月曜日だ。訳がわからない。
「月曜の朝から上機嫌だな」
俺はキーボードを叩く手を止め、向かいの席でノートパソコンを開く高柳へ挨拶代わりの言葉を投げる。
「今日を乗り切れば連休だからね~」
‥‥‥?
パソコンのパスワードを入力しながらうそぶく高柳。
そのあまりに自然なボケに俺は完全に置き去りにされる。
口を半開きにした俺はパソコンの画面から目を離し、向かいの高柳をのぞき込む。
「いや高柳、お前何言って‥‥」
のぞき込む俺の気配を受けて目線を上げた高柳と目が合う。
「あ、今日飲み行こーよ」
高柳は俺の言葉を遮り、飲みに誘ってきた。
月曜日の朝にしては、やけに元気な瞳だ。
いや別に、元気であるに越したことはないのだが。
「今日月曜だけど‥‥行っちゃう?」
おう、行こーぜ!と乗っかっていくには月曜日という曜日がちょっと重い。
しかし、高柳は不思議そうな顔をして言う。
「え?今日は金曜日。華の金曜日でしょ」
「‥‥は?」
どうやら高柳のボケはまだ継続中らしい。
「高柳。今日って何曜日?」
「金曜」
即答。
純真な輝きをまとった瞳が語りかけてくる。
今日は金曜日であると。
「本当に言ってる?」
「え~。どうしちゃったの~。あ、ヒロは仕事人間だから金曜日の有難さがわからなくなちゃったのか。かわいそうに、かわいそうに」
南無南無と両手を合わせる高柳。
この茶番にどこまで付き合ったものかと思ったが、別に高柳と飲みに行くこと自体はまんざらでもないので、俺はもう彼女のとち狂った曜日感覚に合わせることにした。
「あぁ、そうだった。今日は金曜日。いいよ。飲みに行こう。でもなるべく早く行こうな」
素早く効率的にというよりはゆっくり確実に仕事をこなすタイプの高柳が果たして月曜日の夜から早めに仕事を切り上げて飲みに行けるのかは疑問だった。
最初のコメントを投稿しよう!