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大変だ。
金色が無い。24色色鉛筆の、金色だけ無い。
「母さん、金色の色鉛筆知らない?」
「知らないけど、無いなら他の色で塗ればいいじゃない」
「ダメなんだ。金色じゃなきゃ」
あの出来事を綴るには。
だってあの色は、オウゴンオニクワガタの色なのだから。
うだるような暑さの中、僕は虫を捕りにきていた。
「なんで中学生にもなって虫捕りなんか…」
「虫捕りに年齢なんて関係無いよ」
僕をここに誘った友人、マオが言う。
地毛の金髪が木漏れ日に反射してキラキラしている。笑顔も白い肌もキラキラしていて全てが太陽の様に眩しいので、僕は目を背ける。
「俺の夢、オウゴンオニクワガタの捕獲に協力させてくれ」
そう言う彼は手ぶらで、虫捕り網とカゴを持ってきた僕は全面協力しなければならない。
「そんな簡単に見つかる訳ないだろ」
この森を血眼で探しても見つからない。そもそも日本には生息していないのだ。
しかし、純粋な眼差しを向ける彼の夢を早々に壊すのは気が引けた。
見つからなかったら諦めるだろうし、いずれ日本に生息していないと知る機会がやってくるだろう。
その時、何かが光った。
目を凝らして見ると、その正体がわかった。
オウゴンオニクワガタだ。
嘘だ、こんな所にいる訳がない。
誰かが飼っていたのを逃がしたのか?
「おい、あそこにいるぞ」
僕は振り向いた。
しかし、先程までそこにいたはずのあいつがいない。どこかへ走って迷ってしまったのだろうか。
「マオ!どこだ!?」
叫んだが、返事はない。
お互いスマホを持っていないから、連絡も出来ない。
まるで神隠しにでも遭ったかの如く、あいつはいなくなってしまった。
オウゴンオニクワガタもいなくなってしまった。
マオを捜し続けて2時間は経っただろうか。
また何かが光った。キラキラと眩しい。先程のオウゴンオニクワガタだろうか。だが、今はクワガタどころではない。
「どこだ、マオ!!!」
キラキラした何かがが眩しくて目を背けたが、惹かれるものがあったのか、勇気を出して思い切り目を見開いた。
木漏れ日が反射して、全てが眩しいが、見慣れた笑顔がそこにあった。
捜し続けたマオだ。
「マオ!!!お前今までどこ行ってたんだ!」
「やっとこっちを見てくれた」
その言葉の意味は理解出来ないが、マオの手の甲にはオウゴンオニクワガタが乗っていることは理解出来た。手の視線に気付いたマオは言う。
「これは俺が購入して飼ってるクワガタ。一緒に散歩したらどこかへ飛んでいっちゃったんだよね」
クワガタと散歩?外へ?アホなのかこいつは。
「ほら、捕まえてよ。俺の夢、叶えてよ」
彼の夢は購入ではなく捕獲。強引だが、放してしまったのを良いことに、捕獲して改めようとしているのか。
手に乗っているからそのまま片手で蓋をするなりなんなりすれば良いと思うのだが、虫捕り網を持っている僕が捕獲に全面協力しなければならないのだった。
「ほら早く、逃げちゃう」
屈託の無い笑みで言う。
網を掲げてマオに近付く。金髪も、笑顔も眩しい。しかし、目を背けたらクワガタを捕獲出来ない。
目を開いて、何とか捕獲した。
マオの顔を見ると、満面の笑みだった。
「僕は太陽じゃないよ」
ああ、そうか。彼は、僕が彼の笑顔から目を背けていることに気付いていたのか。単に眩しからだけではなく、陰の様な僕にはその眩しさに耐えられないから。でも、それは脳内で過剰にキラキラさせていただけで、ちゃんと向き合えば以前より眩しくはなかった。
夏休みの課題は英語だけが残っていた。夏休みの思い出を1つ、絵と英文で書かねばならない。つまり絵日記。
夏休み中、特に大きな出来事がなかったので、この虫捕りのことを書くしかないと思って色鉛筆を引っ張り出した。24色セットなので、金の色鉛筆が入っていると思ったのだ。
色鉛筆ならば、1本数百円で買えるだろう。財布を持って外へ出た。
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