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制服だった。
私の親友の、休日買い物に出かけようと誘って、待ち合わせ場所に来た時の服装である。
ウチの学校は制服事情がちょっと特殊で、女子は上下タイと四パターンずつある規定から好きなものを選べて、驚くことにズボンなんかも着られるようになっているのだが、こやつはそのズボンをものの見事に着こなしている。
その癖して普段から、外見には特に気を遣っていないなどと供述しており、ならその完璧な容姿はどうして生まれるのか百パーセント天然なのかこのやろーとでも言いたくなるが、無論、その通りなのである。
スラリとしたフォルムは性別など超越した自然界の理想に限りなく近いと思われ、少しボーイッシュで飾らない制服も、彼女の『美』を過度に抑えていない。おかげで学校では、男女問わず人気者。親友として誇らしいような、妬いちゃうような。
「そーれーで、何で休日なのに制服なのかなー?」
とりあえず、デパートを歩きながら事情聴取することにした。
「私は、この服が着たいから。」
などと完璧フェイスで何とも爽やかに供述しております。いくら制服が好きだからって、せっかく二人で出かけるっていうときにオシャレの一つもしないってのはあんまり関心しない。
「私は色んなカッコのアキが見たいな……今日誘ったのも、林間で着る服一緒に選ぶためだし。ほっとくと制服で着そうだからなー。」
「え? そのつもりだったけど……ダメなの? 林間制服の学校だってあるじゃん。」
「よそはよそ、うちはうち。せっかくうちの学校は私服でもいいってなってるんだから、着なきゃ損だよ、損。」
「まあ、友里がそう言うならそうするよ。」
あら、案外素直。
それはそれとして、目的の洋服屋さんに着いた。割と安いところだけれど、オシャレと価格は別物だし、何より服を買いなれていないアキの金銭感覚がわからない以上、『やっぱり高いから買わない』と言われる可能性を低くしておきたい。
「それで、気に入ったのある?」
「友里が決めてよ。私じゃあよくわかんないからさ。」
まあ、そうだよね。私もそのつもりでいた。
「いいけど……多分ボーイッシュな感じになるよ?」
何せ今の格好が似合いすぎているもので、多分この超絶美人は他の服も大抵は着こなせるのだろうけど、それがわかっていても目の前の正解に引っ張られてしまうのは目に見えている。
「いいよ、友里が選んでくれる服なら何でも。」
やめろ! そのイケボはマズい! なんかキュンとしちゃうから! なんか別の道に走っちゃうから!
とまあそれはさておき、とりあえず服を選んで来たので、手渡して試着室に入れる。
「へえ、ストレッチデニム……それも色付きの。こんなのあるんだね。」
「やっぱり、アキのパーフェクトなスタイルを出すためにはこういう素材がいいかなって。で、アキは赤が好きなので、上に赤を着るなら緑かなっていう直感。でも想像以上に良いわね。アキの細くてキレイな脚の形がピッと……アキ、脚細っ!?」
「えっと、友里はこの服装の私、好き?」
「当ったり前じゃない! すっごい似合ってるよ。」
「なら、良かった。」
そう言うアキの顔は凄く輝いていて……いや、美しいのはいつもだけれど、なんかこう、凄く嬉しそうだった。
あれから三年が経った。
私は諸々の事情により一年くらい前から年中自宅に居るようになったけれど、アキは登下校毎日二回、必ず会いに来てくれる。よく飽きないものだ。
で、もっとよく飽きないものだと思うのはその服装である。
大学に上がって制服ともおさらばだというのに、アキは赤い上着に青緑のカラーデニムという服装を、新しい制服とでも言うように徹底している。
微妙なほつれや汚れの違いでわかったことだが、どうやら同じ服をいくつも持っているらしい。し◯のすけか!
いつだったか母が、
「アキちゃん、その格好好きなのね。」
と聞いていたが、
「友里が好きだって言ってくれたから、私はこの服を着たいんです。」
と答えて母を泣かせた。こらこら。
大体、私はもっと色んな服のアキが見たかったのに、あなたがそんなのだとどうにもならないじゃない。
そういえば、制服はズボンならカッコイイんじゃない? と言ったのも私だったっけ。今思い出した。
もっと早くそう言ってくれれば良かったのに。そしたらもっと、たくさんのアキを好きだって言えたのに。
その日もアキは青緑色のジーンズで、部屋の隅の私に向かって手を合わせた。
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