堕ちる

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「何でここに?」 「いや、それは僕の台詞だよ」 「…兄か」 険しい表情で翔介さんが呟いた 一体お兄さんは何を企んでいるんだろう…? 私と翔介さんを会わせてどうするつもり… 「よく来たな翔介。待っていたぞ」 ニヒルな笑みを浮かべながらお兄さんが歩み寄って来ていた 「…何のつもりだ」 「そう構えるな。愉しい食事会が台無しだ」 「…佳純、帰ろう」 翔介さんは私の手を掴んでそう言った 久しぶりのその温もりに体温が一気に上がる ああ…やっぱり私…この人がいないとダメだ… 「どこへ行く気だ」 「…社の親睦会にどうしても一目顔を出せと言うから来たんだ。下らない策を弄するなら帰らせてもらう」 「まあもう少し待て。あと少しで来る」 「は?何が……」 翔介さんとお兄さん、二人のやり取りの向こう側で 「…どうしたんだ佳純?」 私はその人物の姿に見惚れていたーーー 「ああ、丁度来たようだ」 綺麗な黒に散りばめられた鮮やかな花の振袖 そこから覗く雪のような白い肌 立てば芍薬、座れば牡丹という諺があるけれど その人物の立つ姿は本当に…芍薬のように 凛として美しく…私から言葉を奪った ーーー「初めまして」 「今日は来て下さりありがとうございます」 翔介さんへ目をやると、静かに事態を飲み込もうとしているようだった 「…紹介しよう翔介。 彼女がかの有名な清彩蔵(キヨザクラ)のご令嬢 春宮 彩さんだーーー」 「春宮彩と申します。本日はお招きいただきありがとうございます…」 清彩蔵…私でも知ってるお酒メーカーだ… この綺麗な人が…その社長令嬢なんだ… でもどうして…翔介さんに挨拶を…?? そんな私の疑問を吹き飛ばすかの如く、お兄さんの言葉が響いた 「翔介。以前話したな…この方がお前の 婚約者になる方だ」 沈黙が、その場を支配したーーー
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