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「は…は…っ」
狼狽しながら、漸く、翔介さんは言葉を絞り出す
「…いきなり何を言い出すかと思えば…!本当にあんたは…何を考えてんだよ…!」
「喚くな。みっともない…彩さんの前だぞ」
お兄さんを無視して、翔介さんは春宮さんに直接話しかけた
「…春宮さん。今日は来ていただいて申し訳ないのですが、僕は貴方に釣り合うような人間ではありません。この話は無かったことにしてもらえませんか?」
一瞬、春宮さんの顔が強張って見えた
気のせいかな…
「そんな事はありません。正直、私が想像していたよりもずっと聡明そうなお方で安心しました」
「…僕はウェルズホールディングスとは関係の無い人間で、しかもただの会社員です。つまりこの政略結婚に関わる事自体おかしい話なんですよ…御理解下さい」
翔介さんにしては、かなり強気な物言いだった
それだけ腹に据えかねてるんだろうな…
「鳥谷様。どうやら…私の元に入ってきたお話と些少誤差があるようですが…?」
春宮さんは詰め寄る様にお兄さんに問い掛ける
しかし悪びれる素振りすらなく、お兄さんは返した
「申し訳ない。我が家の愚弟は少し我が儘に育てすぎてしまってね…半ば強引な形をとってしまったが、近い内に翔介には我が社の役員になってもらうつもりだ」
「いい加減にしろよ…」
「いい加減にするのはお前だ。その歳でいつまで好き放題するつもりだ?父が許しても俺は許さんぞ」
「俺はっ…!あんたのそういうところが嫌で堪らなくて家を出たんだ!!人の人生をなんだと思ってるんだ!!」
「聞き捨てならんな。俺はお前の幸せを願ってこそ多少強引な手段を用いてるんだ。それがわからん時点でお前はまだまだ子供なんだ」
「俺の幸せを願ってるなら、もう放っておいてくれ!」
加熱していく二人のやりとり
それを見守る私と、春宮さんの目が合う
「…ところで」
そう切り出す彼女は薄らと笑みを浮かべていた
「そちらの可愛らしい女性はどなたですか?」
「えっ!あっ…私はーー」
言葉に詰まった瞬間、間髪入れずにお兄さんが返した
「ああ、彼女は翔介の仲の良い【友人】でね」
えっ…?
友人…!?
「春宮さん、彼女は僕のーー
「花井さん。今日はわざわざこんな所にまで遊びに来てくれてありがとう。これからも翔介の良き【友人】としてよろしく頼むよ」
翔介さんを遮る様にお兄さんが私にそう言った
漸く私は、自分の愚かさに気がついた
…そうか
この人は初めから話し合うつもりなんてこれっぽっちも無かったんだ……
ただ私に身を引かせるために
春宮さんと私を引き合わせたかっただけなんだ…
ーーーー悔しい
悟った途端、強烈な惨めさが込み上げてきた
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