堕ちる

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まるで別人のように 仕事の意欲さえ無くした私は定時までダラダラと業務をこなし、定時になった瞬間に早々に切り上げる 「菜穂、帰るね」 「あ…佳純、今日一緒に帰らない?」 「今日お父さんの病院に行くんだ。ごめん」 「そうなんだ…わかった」 「お疲れ様」 当然お父さんの病院には行かない 私は携帯を取り出して、電話をかけた 「ーーーもしもし?佳純…?」 「ーーー久しぶり。連絡出来なくてごめんなさい」 「心配したよ…あの日から全然連絡くれなかったから…」 「大丈夫だよ。少し仕事に力入れたかったから連絡出来なかったの」 「良かった…あれから兄に何かされてない?」 「あれからは一切音沙汰無くなったよ。ねえ翔介さん、今から会える?」 「え?…ああ、うん。会えるよ。どこかで待ち合わせする?」 「ううん。久しぶりに家に行かせて?」 「…それは構わないけど、明日も仕事なんでしょ?」 「気にしないで。もう仕事はひと段落ついて楽になったから」 「ーーわかった。じゃあ家で待ってる!夜ご飯はどうする?」 「私何か作っていいかな?」 「え?じゃあ、お願いしようかな」 「わかった!何が食べたい?」 「んー…佳純の得意料理で」 「じゃあ材料買って今からいくね!」 何事もなかったように 水面下で生きる深海魚のように 例え翔介さんにでさえ 露わにしてはいけない 悟られてはいけない 私の中にある、止め処ない感情の正体を 暗く深く悍しい ーーー「闇」を
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