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「いきなり来て何なの貴方…まあいいわよ。早く話しなさいよ」
「ここじゃあれなので、ゆっくり座ってお茶でもしながら話しません?」
微笑みを浮かべて、私は言った
「まあ…別にいいけど」
意外と付き合いがいい人だな…
「ありがとうございます。では駅中のカフェにでも」
平井さんを先導し少し歩いた先にカフェがあったので私達はそこでお茶をする事にした
奥の席まで移動し、服を脱いで席に着きそれぞれにコーヒーを頼むと、私は平井さんに話を切り出した
「もう察してるとは思いますが、話というのは寺尾課長の事です」
「…やっぱりそうだと思ったわ。企画部の人間が私に話があるなんてそれ以外にないしね」
「…タバコ吸ってもいい?」
平井さんは私に尋ねる
「どうぞ」
「悪いわね」
平井さんは鞄から取り出した煙草に火を付け吸い始めた
それにしても…
こんな綺麗な人が何で課長なんかと付き合ってるんだろう
煙草を吸う姿がやけにしっくりくる彼女から、私には無い大人の女性の色気を感じた
長い髪と指から艶やかさが溢れ出している
「で、何?不倫は良くないからやめろってわけ?」
堂々と居直る彼女は、それが悪い事だとは微塵も思っていないようだった
「奥さんにバラすつもり?いいけど向こうが傷付くだけだしやめた方がいいわよ。私からしたら向こうの家庭が壊れるのは好都合だしね」
そのセリフから、きっと彼女も色々苦しい思いをさせられてきたんだと私は悟った
「そんなつもりはありませんよ。私の話はむしろ貴方にとっては良い話かも知れません」
「…何?」
「実は…課長、奥さんと離婚するそうですよ」
「…え?」
勿論これは嘘だ。いや本当かもしれないけど少なくとも私はそんなことを知らない
しかしそのでまかせを信じたのか、平井さんは明らかに動揺している
「…いつ?」
食い気味に尋ねる彼女に私は答える
「来月って言ってました」
「…ほんとなの…?何で貴方がそんな事知ってるのよ?ていうかそれを何で私に言いに来たの?」
先程より饒舌になったのは動揺を隠す為なのか興奮しているからなのか
心中穏やかじゃない彼女に、畳み掛けるように私は続ける
「私は以前から課長が貴方と不倫されてたのは知っていました。実はたまに相談を受けていたので…
その話の中で、課長が奥さんと離婚する事を訊いたんですが
課長は貴方にはその事を言わないでおくって言ってたんです
そんな煮え切らない態度に腹が立って私の独断で勝手に貴方に言いに来たんです
じゃないと…平井さんが報われないじゃないですか!!」
私は語気を強めて言い放った
そう…私は貴方の唯一の理解者、唯一の味方だから
平井さんも全てを曝け出してくれないとーー
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