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「課長、おはようございます」 「おはよう。今日は朝から営業があるらしな、気を付けてな」 「ありがとうございます!」 「おはようございます課長!」 「おう、おはよう。今日の会議よろしく頼むぞ」 みんな俺を慕っている 慕ってくれている 一流の会社員は、部下の機微にも目を配るものだ それがこういう結果に繋がっていくんだな 「おはようございます。課長」 そして今一番俺を慕っているのは、間違いなくこいつだ 「おはよう花井。今日も頑張ろうな」 「はい、頑張ります!」 いつも引っ込み思案だったこいつが急に昼飯に誘って来るから何か良からぬ事を企んでいるのかと思ったら まさか落とし穴を回避するにうってつけの橋になってくれるとは 「どうだった?何か進展はあったか?」 「彼女からは昨日は特に何も…今日また不動産屋に行って書類提出して来ますね」 「あ…ああ…、首尾よく頼む」 「任せて下さい!」   初めは普段の暗さとのギャップに戸惑いはしたが 単純な話、こいつはこいつで俺とコミュニケーションを図ろうとしたんだろう それで咲子を口実に近づいたというわけか やはり開発展の一件で俺に気に入られていなければ損だと自覚してしまったかな 可哀想だがそれは仕方ない事だ。華がないのは自分のせいだからな まあ…でも、今後の働きによっては次のイベントで使ってやらんこともないが 「寺尾課長」 「はい?」 低い声でそう言ってきたのは人事部長の梅本部長だった 「…おはようございます!どうなさいました!?」 「…少し来てもらえますか?」 笑顔とも呼べぬ笑顔で、部長はそう言った 俺は理解している 人生は至る所に落とし穴がある 足を踏み出し、踏み抜かぬように 細心の注意を払う もしそれを誤った場合 奈落へと…引き摺り落とされるのだとーー
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