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「課長に連絡はしてみたんですか?」 「…連絡がとれないわ」 定時後、テグロフに集まった私達 「家にいるんですかね」 「わからないけど…借りた物件はどうしたらいいのかしら」 「借りた家のお金はなんとしてでも払ってもらいましょう!最悪違約金だけでも!」 「お金はいいわ…これからあの人大変だろうし…」 「甘いですよ…!ーーー平井さん?」 「でも」 よく見ると、彼女の瞳は潤んでいた 「…私…別れたくないの。あの人を支えたいの」 「あの人がどんな人だとしても…私はあの人に救われたから」 俯き、カップの中を覗き込みながら…彼女は話し始めた 「入社してすぐ企画部に所属して、まだ会社に馴染めずにいた頃 仕事が上手くできずに…その癖プライドだけは高かったから、私は社内でも浮いていた 同僚達に悪口を言われて先輩にも愛想を尽かされて やっぱり自分には人付き合いは無理だ もう辞めよう この案件を終えたら辞表を提出しよう…そう思ってた」 「そんな時に、彼が話しかけてきたの」 ーーー ーー平井って字綺麗なんだな ーーえ?あ、はい…ありがとうございます ーー知ってる?字綺麗な人って、心も綺麗なんだって ーー…は? ーー俺の字見てよ ーー汚いですね。心が汚すぎるんじゃないですか ーーハハ、言うなぁ ーーちなみに安心して下さい。字が綺麗な人が心も綺麗だと言う話は嘘ですよ。私が証拠ですから ーーーまあでも 人の悪口や陰口言う奴なんかより…平井はよっぽど心の綺麗な人間だと思うよ ーーえ…? ーーそんな汚い奴等、見返してやればいいよ ーー…はい! ーーー 「単純だと思われるかもしれないけど その言葉と笑顔で私は一瞬にして彼に恋してしまった」 「今思えば、辞めそうな私を辞めさせない為に言ってたのかもしれない。それでも…」 「私はーーずっとこの人と一緒にいたいと…そう思った。例え妻子があっても…それでもいいと、そう思ったの」 零れ落ちる彼女の涙に 私の胸が激しく軋む音が脳内に響いた この人の情熱に、私の悪意が呑まれていく 課長ーー貴方は こんなに貴方を想う人を…傷つけ続けているんですよ… そしてそれは私も同じだーー
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