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…揺らいでいる
微かに私に残る良心が
これ以上この人を傷付けてはいけないと
憎悪を薄めていく
私は一体、何なんだろう
人の人生を引っ掻き回して、弄んで
一丁前に良心の呵責に苛まれている
ただその場を漂うだけの、浮草みたいな人間だ
そっか…
だから奪われるんだ
見下されるんだ
覚悟を決めたなら、悪に徹しないと
菜穂のように、強く凛々しくなるには
泥濘の中で泳ぐ強さを手に入れるんだ
例えそれが全く真逆のーー
彼女から…掛け離れた存在だとしても
自分を壊して
私は成る
翔介さんに相応しい女に
「フフッ、アハハハッ…!」
「…ど、どうしたの?花井さん」
「…ハハ…ごめんなさい、つい笑っちゃった」
「…何が可笑しいの?」
「平井さん。私ね」
「…?」
「私、貴方を使って課長を陥れようとしたの」
「……え?」
「実は課長に恨みがあったんです。だから、課長をどうにか苦しめたくて。そんな時に貴方の事を知ったから利用させてもらおうと思って近付きました」
「…なっ、なんでいきなりそんな嘘……嘘よね?」
強張る表情と握る拳が、彼女の怒りと困惑を露わにしていた
「本当ですよ
もう課長を陥れる必要も無くなったから、貴方の仕事はお終いです」
「…どういう事…?
…どういう事よ!!!」
私の胸倉を掴み、彼女は叫んだ、
「平井さん…被害者面で感傷に浸るのは辞めて下さいよ
貴方も考えなかったわけないですよね?
課長には、奥さんとお子さんがいるんですよ?
角度を変えて見て、貴方が課長の妻だとして考えて下さい
毎日毎日ご飯を作って待っていた旦那が、他の女とデートしていたら…どう思いますか?
相手の女の人が、自分の旦那を自分よりも溺愛していたとしたら許せますか?知ったこっちゃないですよね?
貴方は何故か今ご自分が課長に不倫【させられている】側にいると思っていますよね
そして私にその幸福を崩されたとも思っている筈です
でも、違うんですよ
幸福なんてものは初めからどこにも無い
課長を愛している?笑わせないでください
貴方は奥さんからすれば旦那を不倫【させた】側でただ人の幸せを奪うだけの
醜く!
浅ましく!
狡いだけの!
泥棒猫に過ぎないんですよ!!」
…捲し立てる私の目の前で
彼女は呆然とし、その場にへたり込んだ
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