加速

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加速

ーーー 課長が会社を去り数日が経ち 今度配属された課長はまともそうなしっかりとした40代くらいの人だった 「…はぁ」 課長を追い出すという念願が叶ったというのに、私はまるっきり仕事に精が入らない それは恐らく…自分の作ったストーリーが何一つとして実を結ばなかったからだ あれこれ思索しても、私に出来る事なんて知れている。そう突きつけられたかのような気分だった これでは完璧はまだ程遠い… 今回の事を教訓として身に刻みつけておこう 二転三転する不測の事態にも対処出来るような適応力を身につけないとーー 「花井さん」 「…はい?」 隣のデスクから、岡本さんが顔を寄せてきた こういう時は必ずお得意のゴシップネタが飛び出す 「経理部の平井さん、辞めたらしいわよ」 「え!!?」 思わず大声が出てしまった 周りの冷ややかな視線に会釈で返し、私は尋ねた 「何でですか?」 「それがね…凄いのよ!辞めるときに『もうここにいる意味は無いので』ってハッキリ言ったらしいわよ!」 「凄いですね…」 「経理の子達皆唖然としてたらしいわよ。私も辞める時そう言ってみたいわぁ」 …そっか。彼女は自分の為に生きる道を選んだんだ 選んだ選択はどちらかわからないけれど これまでの人生全部切り捨てて 新しい道へ歩き出したんだなーー 結局私は本当に… 私も課長と変わらない。いや、課長よりも屑な人間だ だけどそれでも…もう引き返さない 「佳純、どうしたの?険しい顔して」 あ、もうお昼か… 背後から声をかけてきた菜穂を見て気付いた 頭がぼんやりしてるや 「ううん。ただちょっとお腹空きすぎてさ」 「ハハ、朝食べてないの?」 「ちゃんと食べてきたよ。翔介さんが作ってくれたから」 「へぇーラブラブなんだぁ?」 何の牽制にもならないのにわざとらしく言ってしまう わかってる、菜穂は翔介さんにこれっぽっちの感情も抱いていない だけど人の気持ちなんてわからないから しかも相手が翔介さんだとすれば、菜穂でさえふとした拍子に恋をしてもおかしくない
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