加速

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ーーー 夜も更け込み、私達は寝床につく 「おいで」 その優しい口調に、まるで花に集まる蜜蜂みたいに私はフラフラとベッドに引き寄られる そして彼の腕枕の中で至福の時を過ごす この瞬間だけが、私が私でいられる唯一の時間だ あれ?私って…一体どんな人間だったっけ もう…それすらもわからなくなってきている 「翔介さん…翔介さんから見て、私ってどんな人間に見える?」 「え…?佳純は…ちょっと変わってるけど普通の女の子だよ」 ちょっと変わってる…? 「変わってるのかな、私」 「…うん。僕みたいな人間を好きでいてくれるんだから、変わってるよ」 「じゃあ世の中の殆どの女の子は変わってるかもね」 「佳純だけだよ」 「…ん」 触れられた額が熱を帯びる 「私だけであって欲しいな」 「心配いらないよ」 この安らぎを、温もりを守り抜くためなら 私はどんな悪事も厭わない… だけど、翔介さんにだけは清く思われたい だってあなたが好きな人は 私の知る中で最も 誰より清く、正しい人間だからーー 「そろそろ寝ようか」 「…うんっ」 菜穂さえいなければ…この平穏を虚構だと思う事も無いのに 真っ黒な感情に支配される事も無いのに この愛と温もりが確かなものだと そう信じられるのにーーー
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