加速

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  「…わかってる。だけど僕はーー多分家にいても会社にいても、絶対に風見のことを考えてしまう」 「…知ってしまってるから、もうどうしようもないんだ…」 許して欲しいとは、彼は言わない 私が許すのを知っているから そしてもし仮に許さなくても…彼はもう決めてしまっているから 「じゃあ…私も毎日来るよ。いいよね?」 「当然だよ。…佳純、ありがとう」 ありがとうなんて言わないで 許してるわけじゃないんだよ… 本当は言いたいんだよ 「菜穂には関わらないで」って だけど それすら言えないくらいに…私と彼の関係は 曖昧で、揺蕩った   か細い糸で結ばれた関係だからーー 「…帰ろうか」 「…家に行ってもいい?」 今は少しでも目を離したくない 「…いいよ。おいで」 一人でいたら…不安で押し潰されそうになるから 言葉を紡がず、黙って翔介さんの後をついていく 俄に降る雨の音が私達の沈黙を強調している… 二人とも傘もささず、歩幅は小さく、何かに遮られているかのように歩いた 電車に乗り込み席についても、無言のまま景色だけを見送る そうして暗い雰囲気のまま、私達は翔介さんのマンションに辿り着いた 「…あ」 エントランスホールに差し掛かった時、翔介さんが声を漏らした よく見るとオートロックの前に誰かが立っている その人物は、翔介さんの方を向いて叫んだ 「あっ!翔兄!!」 「…麟」 「弟さん…?」 「うん…」 私は翔介さんの顔を見上げ、すぐに翔介さんの弟さんに目線を移した ーー彼は、私の顔を見て思わず固まった が、そのあとすぐに笑顔を作り私に言った 「…初めまして。翔兄の弟の鳥谷麟です!」 私は一瞬目を疑ったーーー 何故なら 愛想よく挨拶をした彼が 昨夜見たあの凶暴な金髪の男と同じ顔をしていたのだから…
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