加速

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「麟。何か用か?」 「うん!ちょっと話があってさ」 「…急ぎの話?」 翔介さんは私をチラリと見た後弟さんに尋ねた 「うーん。いいや、今度で」 「ちなみに、この人は翔兄の彼女さん?」 弟さんは横目で私を見て尋ねる 「ああ…花井佳純さんって言うんだ」 彼女として紹介してもらったのに、今は素直に喜べない… 「…初めまして」 私は恐る恐るそう言った 「兄がいつもお世話になってます!今後ともよろしくお願いします!」 屈託の無い笑顔でそう言う彼 「いいなぁ翔兄、こんなに可愛らしい彼女さんがいるなんて。俺も彼女欲しいなぁ」 口ではそう言ってるけど、彼も鳥谷家の血筋を引いてるだけありかなりのイケメンだし作ろうと思えばすぐに作れるだろう 「…麟。悪いんだけどさ、ちょっと今日はもう帰ってくれないかな?」 その空気に耐え兼ねたのか、翔介さんは渋い顔で言った 「…あっ、ごめん。お邪魔虫だね俺!空気読めてなかったよ!んじゃまた来るよ!」 「佳純さん、またねえ!」 一方的に言い残し、彼は手を振りながら颯爽と駆けて去っていった 「……犬みたいだね」 「…うん」 やっぱり私の見間違いだったみたいだ あんなに愛想の良さそうな子が昨日の男の子のわけないよね 「言った通り、僕とは全然違うでしょ?」 「…確かに。静と動だね」 「陰と陽と言った方がしっくりくるよ」 自虐気味に翔介さんは言った 「翔介さんは陽だよ。間違いなく」 「…佳純だけだよ。そう言ってくれるの」 こんなにカッコいい人が陰だと言うなら世界中の男は皆陰だよ… 「…疲れたね。早く部屋に入ろうか」 「うん…」 足が…重い ーーー前に進むのを…躊躇う エレベーターを降りて家の扉の前まで差し掛かった時 辺り一帯を冷たい空気が覆っている気がした …昨日までと同じ家だとは思えない まるで、赤の他人の空間だーー 「…さっ、入って」 扉を開き、翔介さんが手で促す 「…ありがとう」 ただひたすらに甘い とろけるような時間は もうここでは過ごせない…そんなザワつきを感じながら 私は、ゆっくりと扉の奥へと進んでゆくーーー
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