加速

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売店に行き飲み物を買い病室へ戻ると、菜穂と翔介さんと菜穂のお母さんが楽しそうに喋っていた 私は若干申し訳無い素振りを見せながら、三人の中に割って入った 「あ、戻りました…」 「おかえり佳純!ありがとうね!」 「佳純、ありがとう。ごめんね」 「ううん。何の話してたの?」 「鳥谷さんに料理の話聞いてたの。お母さんがかなり聞き入っちゃって」 「ほんとに、凄く料理好きなのね!私も好きでよく作るけれど、鳥谷さんの知識には遥かに及ばないわ」 「いえ、僕も料理本に書いてる事を見様見真似でやってるだけなので…」 「それを覚えてるだけでも凄いわよ。機会があれば是非手料理を食べてみたいわ」 「もう、お母さん。そんな機会ないわよ」 「あら、そんなのわからないじゃない」 三人のやりとりを暫く呆然と見届けた後、私は思い出したかのように切り出した 「…あっ!菜穂、私布団干しっぱなしだからそろそろ帰るね!」 居た堪れない この場から一刻も早く去りたいーー 「え?そうなの?わかった!本当にごめんね佳純」 「ううん。翔介さん、どうする?」 私は微かな希望を込めて翔介さんにそう言った 「うん…と、僕はもう少しだけいるよ。おばさんにレシピも教えたいからさ」 「え!?いいのかしら?嬉しいわぁ」 何で帰らないの…!? 帰ろうよ… 思わず目眩がして、現実から乖離しそうになる 声を大にして叫びたい この人は他でもない、私の彼氏なんだと だけどそれを強く口にできないのは 自分自身が彼にとって、そこまでの存在になれていないからだ 暫く身を潜めていた劣等感が 再び私に牙を剥いている 負けたくない…悔しい…悔しい! 「またね、佳純」 「うん…また来るね」 何で私が負け犬のように惨めに去らなきゃならないの… 翔介さん…こんなのあんまりだよ… 「僕もそろそろ失礼します。風見、また来るわ」 月島さんも続いて帰ろうとしてくれている だというのに、翔介さんは椅子にビッタリとくっついて離れない 「…じゃあね」 菜穂が…憎くなる 私はどうして…こんな醜い恋をしなければならないのかーー
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