加速

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ーーー 菜穂の病院に行ってから凡そ一週間が経ち、同時にそれは翔介さんに会っていない日を表していた 翔介さんは菜穂の病院に面会時間ギリギリまで居た後すぐに会社に戻り、業務をこなす為に会社に寝泊まりしているらしい そんな風に寝食の時間を削ってまで菜穂に献身する翔介さんを、私は見たくなかった だから会いたいとも一度も言わなかったし、翔介さんも私に会おうとは言ってこなかった 本当は今すぐ会いたい。会って抱き締められたいーー 正直そろそろもう、限界が近付いている… ーーーそして今私は そんな思考に時間を割くことすら出来ない程 開発展のスタッフとして、ブース内で忙殺されている 「よろしければこちらのチラシをどうぞ!」 「何か気になるものはございましたか?」 「あ、こちらの商品も是非一度お使いになってみてください!」 「ありがとうございます!こちらのフェイスマスクもよろしければお使いください!」 開発展は予想以上の盛況を見せ、チラシ配りやサンプル配り、商品説明など業務は山盛りだった こんなに忙しいなんて…訊いてないんだけど! 月島さんも額から汗が滲み出るほど忙しなく動いている 「…いやー、すげえなマジで。疲れたわ」 ブースの隅で月島さんが疲弊しきった声で耳打ちしてきた 「予想以上ですね…こんなに忙しいとは」 「いやだがまあ、花井は頑張ってるぞ。マジお前が来てくれてて良かったわ」 「…そうですかね」 「だって他の人だったらこんなふうに弱音吐けねえしな」 「…そんな理由ですか」 「嘘だよ。さ、もう一踏ん張りしようぜ!終わったらなんか上手いもん食いに行くぞ」 「ですね!」 月島さんのフォローもあり開発展は滞り無く進んでいった メーカーとの契約も何点か取ることができ、順調のまま開発展も終わりに近づこうとしていた そう思っていたら…ーーー 「…あら?こんな場所で出会うなんて…奇遇ですね?」 「え…?」 なんで…?ここに…?? 「お久しぶりですね、花井さん」 思わぬ形で、不運は訪れたーーー
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