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「来てたんだ…」
一週間ぶりに会ったというのに、翔介さんの第一声は素っ気ないものだった
「うん…こんな朝早くに来たんだね」
苛立ちから、嫌味っぽく言ってしまった
「あ…丁度用事があったからさ…」
何の用事?日曜日の朝から?こんな場所に?
「鳥谷さん、お母さんならまだ来てないよ」
「あ、そうなんだ…。一応またレシピの本とか持って来たんだけど」
「ねえ翔介さん」
「…どしたの?」
「実は今日菜穂に言おうとしたんだけどさ…もうお見舞いに来るのやめてくれないかな」
この上なく深く暗い声で私は言った
「え…?ど、どうして?」
明らかに狼狽る翔介さんと、驚き目を丸くした菜穂の間で私は続ける
「菜穂、ごめん。翔介さんにはあんな風に言ったけどさ…本当は哀しかったんだ。だからもう翔介さんをお見舞いに来させないで欲しい」
私は翔介さんが嘘をついたことは伏せておいた
菜穂が翔介さんを嫌いになるのは大歓迎だけど、流石に翔介さんのプライドを傷付けるような真似はしたくない
それに彼の前でそんな事を口走ったら
確実に私が嫌われるーーー
「翔介さん。ごめん…私もこないだはあんな風に言ったんだけど…やっぱり辛いよ」
あくまで私がここに来る事を促した体にして私は翔介さんに告げた
彼も嘘をついた事がバレたのをわかったのか、口を噤んで言葉を探している
「…菜穂、いい?」
念を押すようにもう一度尋ねる
「…そういう事なら仕方ないよね。鳥谷さん、悪いけどもう一人では来ないでくれるかな?来てくれるのは凄く嬉しいけど、佳純を傷付けたくはないから…ずっと色々お世話になったのにごめんなさい」
「か、風見…だけどさ」
「お母さんには私からちゃんと話しておくから。お母さんも私も無神経が過ぎたね…もっとちゃんと考えるべきだった」
「ううん。いいの…私こそごめんね。つまらない嫉妬心出しちゃって…」
「それが当たり前だよ!じゃあ、とりあえず今日はもう二人一緒に帰ってゆっくり話し合って?」
菜穂は気を遣ってそう言った
「ありがとう。そうさせてもらうよ…翔介さん。行こ?」
やや強引に私は彼の腕を引っぱる
「か、風見!」
「菜穂、私はまた来るね!お大事に!」
「うん!待ってる!またね!鳥谷さんもまた!」
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