排除

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ーーー 「…お疲れ、佳純。帰ろ?」 「…うん。帰ろっか」 定時になると、私の元にやってきた菜穂がそう言った 「カフェ、寄れる?」 「うん。大丈夫だよ」 「じゃあ駅前のカフェでいいかな?」 「どこでもいいよ」 「…わかった」 細波一つ立っていない ーー今 私の心は、驚く程に凪だ そんな私の心情を照らし出そうと、恐る恐る踏み込んでくる親友がなんだかおかしく思えて来る だけど、不思議と笑顔は浮かんでこない 目の前で何か問い掛けられているのがわかるけど、全く頭に入ってこない こんな事はきっと彼女に出会って初めてかもしれないーーー カフェに着き二人ともホットコーヒーを注文し、菜穂は深い溜息と共に私に尋ねてきた 「あのさ…佳純…単刀直入に訊くね。鳥谷さんと何かあったの?」 この問いにも 私は揺さぶられる事なく淡々と答えるんだ 「別れたよ。何で?」 「……え?!」 「翔介さんに訊いてないの?」 「…お母さんにも鳥谷さんが来たら帰ってもらうように言ったの。何度かあれから来て、りれくれたけど、すぐに帰ってもらったから何も訊いてないよ」 「そうなんだ。何で別れたかわかる?」 「…もしかして私が関係してるの?」 「菜穂は自分が関係してると思ってるの?やっぱり自信がある人は違うね」 「…佳純がそうやって怒ってるからじゃない!私が理由ならきちんと話して欲しいの!佳純とはずっと親友でいたいから!!」 私の世界に 石を投じるかのように菜穂は自分の激情を露わにした 小さな波紋が広がる それでもまだ凪は保ったままだ 「話してどうなるの?何か変わる?菜穂が鳥谷さんに何か言うの?また前みたくお節介焼くの?菜穂の気遣いはいつもズレてるよ。何の解決も出来ないのに一人で奔走するのやめたほうがいいよ。ただただ迷惑なの」 「…どうしてそんな言い方するの…?私は佳純が好きなだけなのに…仲良くしたいだけなのに…!何でそんなに冷たくするのよ…」 波紋が…徐々に広がる 「わからないよ…わかるわけがない… 私が欲しいものを何もかも持ってる菜穂に 何もかも奪っていく菜穂に! っ私が…焦がれ続けて ようやく手にした想いを! 何も知らずに全部奪い去る菜穂なんかに!わかるわけがない!!」 広がりきった波紋は巨大な波となり 私の世界をひっくり返す 凪が止むその瞬間 堰き止めていたものが一気に溢れ出した
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