排除

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狼狽え、目を泳がせながら菜穂は尋ねる 「…何を言ってるの…どういう事…?」 「忘れたわけじゃないでしょ?あんなに苦しんでたじゃん」 「いや…だって…ストーカーなら前に捕まったじゃない!」 「あの男に菜穂の家に行くように頼んだのは翔介さんなんだよ。あの男は翔介さんの友達だって彼は言ってた」 「…そんな…嘘よ…だって…だって鳥谷さん…力になりたいってーー私に過去を償うって言ってたのに!!」 「翔介さんが償おうとしていたのはきっと昔のことじゃないよ。今もまだ犯し続けてる罪に対してそう言ったんだよ」 「待って…じゃあ……それを知ってて佳純は彼と付き合ってたの?」 「…私だって悩んだ。だけど彼も悩んでた…菜穂への想いを絶ちきれない自分に。だから私はその苦しみを少しでも和らげればいいと思って彼と付き合うことを決めたの」 そうだ 私だって最初からこんな醜い感情を抱いたりはしていなかった 彼への想いと菜穂への想いとの狭間で葛藤していたんだ だけど、菜穂と彼を引き合わせてしまったせいで 醜い感情は膨らみ続けてしまったーー 間違っていたのは、私だった… 「何で… 何でそれを私に言ってくれなかったのよ…私が苦しんでるのを知ってて、どうして平気な顔で私の傍に居続けられたの!!」 「平気なんかじゃなかった!!私だって…ずっと苦しんでたんだよ!」 「そんなの勝手に苦しんでただけでしょ!結局鳥谷さんに好かれたいという一心しか無かったんじゃない!!」 「だから菜穂にはわからない!!繋がりが無ければ私みたいな人間が彼に相手にしてもらえるわけないんだよ!」 「…何それ」 深く溜息を吐き、一呼吸置いて菜穂が言う 「…佳純、前に私に約束してくれた事覚えてる?」 「約束…?」 「もう隠し事しないって…佳純が前に私に嘘をついた時そう言ってくれたんだよ 親友だからって、裏切りたくないって…」 「そうだよ!だから私はーー」 「これ以上の裏切りはない!!」 菜穂は目に涙を溜めながら、机を叩き立ち上がった 「…親友だと思ってたのは、私だけだったんだ」 「違う!!」 私だって思ってたよ 親友じゃなかったら、こんなに辛い思いはしてない 親友じゃなかったら…こんなに憎しみを抱いたりはしない 「ーー脆いもんだね。友情って」 「……菜穂」 「もう私に話しかけないで…さよなら」 その背中が語る 強い怒りと、決別の意志ーー 店を去る菜穂を私は追うことが出来なかった いや…追おうともしなかった これが一番いいんだ 親友だから辛いんだ… 初めから、どちらかしか選べない恋だった そう、天秤は既に壊れている なら私は…それが振れる方へ、行くところまで行くしかない 例え彼が私を選ばなくとも いつか描いた未来へーー進むしかないんだ
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