猛襲

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ーー拠り所にしていた 私を支えていたその何かが 音を立てて崩れてく そうか… この子はもう 私が知る佳純じゃないんだ……ーーー もう私が知る佳純は…どこにもいない 「わかった…ごめんね」 フラフラと歩きながら私はその場を去り更衣室へと向かう 「何あれ。あの子あんなに変わってたっけ?」 「…精神病んでるんじゃない?」 「まともじゃないわね」 そうだ 結局の所 人間は皆歪んでるんだ 誰もが、醜さを狡猾に隠しながら生きている どんなにいい人に見えようが 「おはよう風見…だ、大丈夫か?」 弱みを見せてはならない すぐにその弱みにつけこんでくるのだから 「…おはようございます本間さん。大丈夫です」 「…色々あると思うけど、気をつけてな」 「ありがとうございます」 自分を守れるのは自分だけだ… 私はずっと…貴方に縋りすぎてたんだ 信じるから傷付くんだ それなら… いっそもう…誰も… 「風見さん」 「……おはようございます」 更衣室で一人着替えを済まそうとする私に声を掛けてきたのは清彩蔵の春宮さんだった 「どうぞ」 手渡されたハンカチを見た後、私はロッカーの鏡へと目を向けた そっか… 私、泣いてたんだ… 「私でよければ、お話聞きますよ?」 その言葉に、堰き止めていたものが溢れ出す 「…ありがとう…ございます…っ」 私は本当に弱い人間だ 誰にも頼らないで生きようと決めたのに その矢先にまた誰かに寄り掛かろうとしている 「辛い時は無理せず吐き出すべきです。そうして和らぐ苦しみもあります」 「…うゔっ…春宮さぁん…!」 まだ知り合って間もない人の胸の中に飛び込み、私は咽び泣いてしまった 「私は貴方の味方ですよ…風見さん」 彼女から仄かに甘い香りがする 妖艶で、耽美な香り そうして私はまた繰り返すんだ 蜜に釣られた蝶のように 緩やかな深淵へとーー向かっていく
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