猛襲

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…はあ、みっともない姿を見せちゃった 「おはよーさん」 目蓋を腫らしながらデスクに座り仕事を始めると、後ろから月島さんの声がした 「おはようございます…」 「これ間違えて二本買っちまったわ」 そう言うと月島さんは手に持っていた二本のペットボトルの内の一本を私のデスクに置いた 「ありがとうございます」 私は何も訊かずありがたくいただくことにした 絶対間違えてないと思うけど ……ホットレモン、あったかい 今はこの温かさが身に染みる 周囲の視線は突き刺さるけれど、めげてはいられない 仕事に集中しよう 「風見、ここ間違えてるよ」 「えっ、あ。すみません」 …集中しようと思った矢先に課長にミスを指摘されてしまった 「男にばっかり気を取られてるからそんな事になるのよ」 聞き耳を立てていたのか、吉村さんはまたも嫌味を浴びせてくる この人一体私の何がそんなに気に入らないんだろ。何かした覚えないんだけど そんな事を考えていると、今度は課長が吉村さんの方へ歩み寄ってきた 「吉村さん」 「はぁい」 「前にも言いましたけど、メールに添付するファイルが重すぎます。先方に迷惑かかっちゃいますよ」 「あ、ごめんなさーい。気をつけますう」 自分だって注意されてんじゃない 吉村さんを冷ややかな視線で見ていると、向こうは思いっきり睨みつけてきた そして隣のデスクの田宮さんに話しかけている 「杏里ちゃーん、風見さんが人の失敗を鼻で笑って来るんだけど」 「そんなの気にしちゃダメですよ」 …いや笑ってないから。何言ってんのおばさん 「自分が出来るからって出来ない人間を笑うなんて最低よね。でも友達の彼氏を平気でとるような子だもん…ちょっとまともじゃないわね」 「最近の若い子の間じゃ普通なんじゃないですかそれが」 「私らの若い時は横恋慕なんてご法度だったわよ。大体そんな性悪な女に引っかかるような男もいなかったし!今は男のレベルも大分下がってるわね!」 「ハハ、そうなんですか」 「そうよ!特に友達の好きな人になんか尚更手を出さないわよ!やっぱり時代が違うのかしらねー。もうあんな人情を重んじる時代は戻ってこないのかしら…」 私の悪いイメージを植えつけようとしている吉村さんの悪口がずっと聞こえて来る 陰湿おばさん…あんたのどこに人情があるってのよ しかも適当な事ばっかり言って…本当しょうもない 「まああれなのかしらね、隣の芝生は青いっていうものねえ。風見さんほどの容姿があれば奪っちゃいたくなるんじゃないの?」 はぁ? 「ちょっといい加減に…」 堪忍袋の緒が切れそうになった私は一言言ってやろうと立ち上がった 「すみません。よろしいでしょうか?」 …あっ 「ど、どうしたの?」 ふと目を向けると、吉村さんの背後に凛と立ち笑顔で佇む春宮さんがいた 「先程から何やら刺々しい言葉が耳に入ってくるのですが、まさかこの会社では平然とイジメが横行しているのですか?」 「い、イジメだなんて…!私達イジメてるつもりなんかないわよ!ねえ?」 「え?あ、はい…まあ」 春宮さんの言葉に、吉村さんが慌てながら返す もし提携会社の春宮さんから上層部に苦情を入れられるとタダじゃ済まないだろうし、そりゃ慌てもするか 「では他人の人格を貶めるような発言は控えていただけませんか?聞くに堪えませんので」 「え!わ、わかったわ!本当わざとじゃないのよ!?これから気をつけるわね!」 春宮さんは私の顔を見てニッコリと微笑んだ …私はその笑顔にまたも涙腺が緩みそうになる
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