猛襲

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「何でそんないきなり…」 「私、考えるより先に動くタイプですので」 「…連絡先知ってるんですか?」 「電話番号はまだ知りませんが御自宅の場所はお兄様から教えていただいてますよ」 ……馬鹿兄うざ 「大丈夫ですよ、いきなり押し掛けたりはしませんので」 「じゃあどうやって連絡するんですか」 私の問いに、邪な笑みを浮かべて春宮さんは言った 「花井さんに聞けばいいんですよ」 「え、嫌ですけど」 何であんたに教えなくちゃ駄目なのよ。そもそも会って欲しくないのに 「ですがもし教えていただけないなら家に伺いますよ?部屋にも入っちゃうかも知れませんね」 「入れてくれませんよ。絶対に」 入れてくれる筈がない 何故なら 翔介さんの家には…あの部屋があるんだから 黒い扉に封じられた…闇の部屋 不用意に誰かを踏み込ませるなんてあり得ない 「わかっていませんね花井さん 春宮という名は鳥谷家にとっては大いに意味を持つのですよ」 人差し指を口元に当てながら彼女は続ける 「家の中に入る事など造作もない事です」 「…家柄を利用しようだなんて卑劣ですね。でも翔介さんにとって家柄は忌避するものなんでそれは多分逆効果ですよ」 「フフ、それはカードの切り方次第でしょう。どうするかは伏せておきますが、嘘だと思うならそれでも構いません」 ……この自信からして嘘ということはないだろう…けど 「卑怯だと思いますか。ですが私が今こうやって花井さんに話すのは、私なりの誠意なんですよ 本当はお兄様に訊いてもいいのです それをしないのはフェアじゃないからです 正々堂々が私の信条ですので」 また言ってるよ。卑怯が服着たみたいな女が… だけど…私に選択権はないみたいだ 「じゃあ… 約束して下さい。番号教えて翔介さんが電話に出なかった場合は素直に諦めると。わざわざ家まで行ったりしないで下さい」 せめて一矢報いたい気持ちで私は言った 「…分かりました。今日の所はそうします」 「あと番号はお兄さんに聞いたことにしてくださいね」 「了解致しました」 勝ち誇った顔で笑うこの悪魔みたいな女に、私は渋々翔介さんの電話番号を教える 「ありがとうございます。ではまた何かあれば報告しますね」 「…菜穂の事もちゃんと報告してくださいね」 私を尻目に微笑みながら、彼女は休憩室から去っていく なんだか…上手く丸め込まれた感が半端ないな それにしても本当鬱陶しいあの馬鹿兄… いつか絶対一泡吹かせてやる 「はぁ…」 壁にもたれ掛かり大きな溜め息を吐き私は思い耽る 頭に浮かぶのは、ただ一人の事 ーー翔介さん、今何してるの…? 声が聞きたいよ…翔介さんの温度を近くで感じたいよ もう私の事なんて忘れちゃった…? 今何を考えているのか…知りたいよ 会いたい… ……翔介さん
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