世界

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かっこつけて髪をかきあげながら佐伯さんが私に詰め寄ってきた 「なあ?無事に約束は果たしたし、こっちの約束も守ってくれるよな?」 「……約束?」 「とぼけたって駄目だぜ?言ったじゃん!付き合ってくれるって」 「え、ああ…はい。でもそれは結果を見てからだって言いましたよね?」 「知らねえの?菜穂ちゃんもう社内でもかなり悪い噂立てられて孤立してんだぜ!俺の隣のデスクの子達も菜穂ちゃんの悪口言ってたし、十分結果は出てるっしょ!」 「まだ孤立していませんよ、菜穂には春宮さんがついてるじゃないですか。月島さんもね」 まあ春宮さんは私が仲良くなるよう仕向けたんだけど 「…じゃあどこまでやればいいんだよ!」 …こいつ段々偉そうになってきたな。付き合ったら更に調子に乗るタイプだな こんな奴とは絶対に付き合いたくない 「そうですね。それじゃ…菜穂が会社に来れなくなるまで、でどうですか?」 私の言葉に、佐伯さんの顔は引き攣っていた 「…そ、そこまでする?」 「はい。そこまでしなくちゃ駄目なんです」 じゃないと…私の気持ちなんてわからないじゃない 生まれながらにして全てに恵まれた菜穂と 努力してもなんの実りも得られない私 決して交わる事が無い道だからこそ 菜穂にはこちら側に来てもらわなくちゃ駄目なんだよ 「佳純ちゃん…イカれてるね…」 「ありがとうございます」 最早罪悪感なんて欠片も無い この身を包む、圧倒的な悪意 その心地よさに私は溺れかけているーー 「随分仲がよろしいみたいですね」 「…そう見えますか?」 廊下で話す私と佐伯さんの間に、春宮さんが割り込んできた 「あまり二人でいますと根も葉もない噂が立ちますよ。特にこの会社では」 「はは、仰る通りですね」 「あ!彩ちゃん!俺と佳純ちゃんの仲疑ってんだ!?」 「じゃあ佐伯さん、また」 春宮さんに絡もうとする佐伯さんを体で押し退け私は春宮さんと二人きりになった 佐伯さんと距離を取ったことを確認し、私は春宮さんに尋ねる 「鳥谷さんには会えたんですか?」 「…残念ながら、電話に出られませんでした。折り返しの連絡も無かったので色々多忙なのかもしれませんね」 「完全に脈無しですね」 「決めつけるのは尚早ですよ?」 「約束ですからね、絶対家には行かないで下さいよ」 「昨日は。という条件でしたよね?」 「永久に。です」
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