世界

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タイピングの音と時を刻む音だけが響くオフィスで、周囲に気を配りながらなんとか無事に作業を終わらせる 「終わりました」 「こっちも出来たよ!」 「助かりました。佐伯さん」 「なあ、本当に大丈夫……だよな?」 「大丈夫ですよ。絶対うまくいきます」 「そうだよな…んじゃ成功を祝して今から飲みに行きますか!」 「あ、今日はちょっと用事あるのですみません」 「えー?行こうよー?」 「また次誘って下さいね。今日は帰ります」 「そんなビビるなって。どうせ誰も来ねえからさ」 立ち上がり帰ろうとする私の前に立ち、壁に寄りかかりながら行手を遮り佐伯さんが言った いや逆に今は誰か来てくれた方が助かるんだけど 「まあいいや、それじゃ諦める代わりにさ」 そう言いながら気持ち悪い顔面が迫ってくる 「誰か来たら困るからダメですよ!」 「だから誰も来ねえって!それにさ!こないだは康太君って呼んでくれたじゃん?何でまた佐伯さんになったんだよ?なあ…佳純」 勝手に呼び捨てにするな妄想野郎…! 「俺はいつでも準備オッケーだぜ?」 肩を持たれ引き寄せられる なんの準備だ 「いやほんと誰か来ますって…」 「大丈夫だって。ん」 こいつ…調子乗りすぎ 誰か助けて… 「「コツンッ」」 「!?」 「佐伯さん!本当に誰か来ました!!隠れて!!」 「え!?マジかよ!ちょ!」 私の願いが届いたのか、廊下から本当に足音が響いてきた 二人でいると何か怪しまれるかもと思い、佐伯さんをデスクの下に無理矢理詰め込み隠す 足音は徐々にこちらに近づいてくる 「おー、お疲れ。ん?一人か?」 オフィスに入ってきたのは、月島さんだった なんでよりにもよってこのタイミング… 「お疲れ様です!一人ですけど、どうしたんですか?」 ヤバかった PCシャットダウンしてて良かった… 点いてたら確実にアウトだったな… 「その様子だともう上がんのか?」 「あ、はい!もう帰ります!」 「そうか、俺もちょっと忘れ物取りに来ただけなんだよ。一緒に帰るか」 「あ、分かりました。帰りましょう」 「じゃあ電気全部落とすぞ」 「そうですね」 私はデスクの下に隠れる佐伯さんに構わず電気を落とし退社した 来てくれてありがとうございます。月島さん …恩を仇で返しちゃう形になりますけど 許してくださいね 目の前を歩く背中に無言で謝った これから訪れるであろう悲劇に 歪む貴方の表情を想像しながらーー
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