世界

18/21
前へ
/549ページ
次へ
ーーーーーー そして今、私の想像通り 唖然と愕然に満ちた表情で 月島さんはモニターを眺めている それもそのはずだ。自分がした筈のないメールのやりとりが映されているのだから 「月島!これはどう言う事だ!?」 部長の矛先が月島さんへと向かう 「…分かりません。こんなメールのやりとりをした覚えが無いので」 「した覚えが無いって…君のパソコンから送信されてるじゃないか!!」 「誰かが私のパソコンに勝手に侵入してしたのでは無いでしょうか?」 「…わざわざそんな事誰がするんだ!何か恨みでも買ってるのか?」 「…さあ、分かりませんが」 「…やべえよ佳純ぃ」 部長と月島さんのやりとりを見て、私の隣で狼狽えながら震える佐伯さん 「大丈夫ですって。逆にバレますよ。堂々としてないと」 「うっ…たしかに」 ちゃんとメールの送信日時も改竄して月島さんがオフィスにいた時間帯にしている でないと、社員証の入退時刻で照らし合わされたらすぐにバレてしまう 「月島さんは鋭すぎるので、入念に入念を重ねましたから」 「…本当に…鋭すぎんだよ、あの人…」 ただ、月島さんの事だ もしかしたら既に私の事を怪しんでいるかもしれない だけど妙な確信があった 月島さんは私には絶対に報復なんて真似はしない 慢心や驕りとかではなく 彼はきっと、私に対してそういうことをしない人種だ 自慢じゃないけど、そういう嗅覚は昔から結構利く どれだけ自分が泥濘に嵌められようとも 月島さんは決して私には牙を剥かない 絶対にーーー まだ辺りがザワつきを残す中、菜穂のプレゼンは流され次の人の発表となった 菜穂と月島さんは課長に連れられ会議室から退室させられて行った 菜穂…これからは月島さんに頼ることも縋ることも出来ないよ もしそうなればもう、月島さんと一緒に落ちていくだけ 二人一緒に 深い深い、泥濘の中に 淡々とプレゼンが進んでゆく中 私は一人、先程の菜穂の悲痛な顔を思い出していた この身を包むのは ほんの僅かな達成感と 胸に大きな穴が空いたような、圧倒的な虚無感だった フッ フフフ… フフフ…ハハ、アハハ…アハハハハハハハハッ!! なんてくだらない人間なんだろう 歪んでいる とことんなまでに歪んでる 知っているんだ。私は何よりも醜い 最低の屑、生きる価値もない だけど今更、私はもう何にも交わることはできない 真っ黒だーー 真っ黒な世界 最早誰にも…色づけられたりはしない
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加