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「…話はそれだけですか?」
「…クッ!」
「…待ってくれ!」
立ち去ろうとする私を、乃木下さんが呼び止めた
「…あの…その…」
「…何ですか?」
「…良ければ、連絡先を交換してくれないかな?」
「…え?」
突然の申し出に思わず唖然としてしまった
「…する必要あります?」
「花井が暇な時でいいから、俺の話し相手になってくれないか?」
「…いや、お前何言ってんの?」
その通りだ。突然何を言い出しているのか
そもそも貴方と話したい女性は探せば山程いるでしょうに
どうせ私から少しでも情報を引き出そうとしてるんでしょうけど
「貴方なら話す人いっぱいいるじゃないですか。何でわざわざ私と?」
「そうだ乃木下!何考えてんだよ!」
「俺は花井と話したいんだ!今回の件は関係ない。ずっと話してみたいと思っていた」
「え…!?……まさかお前、こいつの事…好きなの?」
「馬鹿なこと言わないで下さい。接点も無いのにそんな事あり得るわけでしょう」
「……まあ確かに好きという感情では無いかもしれないが、単純に花井と仲良くなれたらなって思ったんだ。…駄目か?」
何なんだろうこの人は…
穏やかな表情でこちらをまっすぐ見つめてくる
何か目的があるの?…優しそうな顔して実はとんでもない悪人なんじゃ…
まあ、どうでもいいけど…
「すみませんが、人に話せる程の話題を持っていないのでーー失礼します」
「…おいちょっ、待て!」
「…ハハ、仕方ないな。また話す機会があればよろしくな」
「いや何なんだよお前…マジなのかよ」
振り返らずに、私は会議室を出る
一度オフィスに戻ろうとしたけど確実に佐伯さんが待ち伏せしてるのでそのままロッカーに向かい着替えを済まし会社を出た
……………
歩を進める度に、虚しさが津波のように押し寄せる
寄せては返す
孤独感と罪悪感
ーー私に歩み寄らないで
気安く私の世界に入ろうとしないで
私の世界には誰も踏み込ませない
こんな薄汚い、真っ黒な世界
どうせ踏み込んでもすぐに離れていく癖に
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