世界

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私の世界に踏み込めるのは 多分世界でたった一人だけ …何より大切だった未来 もう失ってしまった未来 何をどうしたってもう過去でしかない 薄雲が朱に染まった、溶けて消えていくような空 淡い明るさが街を染め上げ そしてまたモノクロの世界へと私を誘う ただ一人、私の世界を創り、壊してくれた貴方は 今どこで何をしてるの? ねえ…翔介さん 取り返しのつかない事をしてしまった私を 闇に満ちてしまったこんな醜い私を 貴方が見たらどう思うのかな… 「…………嘘……っ」 刹那、木枯らしが巻き起こり 世界が色を付けていく 「…佳純」 狂おしい程に聴きたかった声 触れたかった身体が 今目の前にあるーーー どうして?? 一体何でここに…? 「久しぶりだね…」 駅の前で、黒いマフラーに顔を埋め少し肩をすぼめながら貴方は立っていた 私は思わず持っていた鞄を落としてしまう 「…翔介さん…」   真っ黒な世界に、光が差し込む 私を構成する全てが いとも容易く壊される 「佳純に会いに来たんだ」 翔介さんはゆっくりと近付き、そう言った 長い長い夜が明け また長い 静かな夜がーー深けるーー
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