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ゆっくり歩いていたつもりだったけど遅刻せずに会社へと辿り着いてしまう
飲み干したコーヒーをゴミ箱に捨て、更なる重圧に苛まれながら重い足取りで門を潜る
だけど…さっきの人のお陰で少しだけ気が楽になった気がする
世の中にはあんないい人もいるんだ
絶望することはないんだ
ここを辞めれば、また楽しい日々がやってくるはずだ
だから…頑張ろう
「あ」
先に声を出したのは
今一番会いたくなかった
かつての親友
今は…ただの敵だ
「おはよう菜穂」
その一言の中に、並々ならぬ悪意を感じたのは
きっと気のせいなんかじゃない
彼女は、私が感じとっている以上の悪意を向けている筈
「おはよう佳純」
「大丈夫だったの?」
何一つ変わらないトーンで彼女はそう言った
「……大丈夫だよ!休んだのだってただの風邪だしね。心配してくれてありがとう」
目一杯明るく言ってやった
佳純本人に辞めるなんてーー絶対に言うもんか!
「そう、よかった。あのプレゼンの時の犯人、佐伯さんだったんだって。ひどいよね…あんなに飲みに行ったりしてたのに」
もう全部わかってるのに…下手な芝居しないで
貴方なんでしょ?多分佐伯さんも切り捨てたんでしょ
どこまで…堕ちれば気が済むの?
「そうだね。相当恨まれてたのかもね」
「どうして菜穂がそんな目に遭わなきゃ駄目なのかなあ」
「佳純」
全部あんたがやったんでしょ!!
喉の奥からそんな声が出そうになる
悔しさで血が出るほど拳を握った
だけど私は踏みとどまった
もうこれ以上この子には何を言っても無駄だから
自分が傷つくだけだ
「佳純も気を付けた方がいいよ。この会社には悪魔みたいな人間がいるみたいだからね。あ、人に嫌がらせして喜んでるなんて人間じゃないか。人の苦しみもわからない、考える脳みそもないただのゴミクズ。だね」
「…そうだね。腐ってるよね」
「一生腐った人生を送ればいいんだよ。そんな奴は」
言ってやった…!
私は言い逃げするように佳純から離れた
「ふーん。元気そうだね…菜穂」
そのまま更衣室まで歩くと、心配そうな瞳をした春宮さんがいた
「あ!菜穂さん!」
「春宮さん…心配かけてごめんなさい!」
「いいの。こうやってまた会えただけでも嬉しいの」
ああ、この人は…優しいなあ
この人だけには…ちゃんと言っておかないといけない
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