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「…実は私、今日で辞めようと思ってるんだ」
「え!?本当に!?」
「もう耐えられなくて…ここにずっといる意味も無いなって思って」
「確かにそれもそうよね…あんな事されたら嫌になるよね」
「うん。ごめんねなんか…春宮さん色々助けてくれたのに」
「私こそもっと力になれたら良かった…」
「ううん!春宮さんがいなかったら私…今頃廃人になっちゃってたかも知れない。本当に感謝してる!ありがとう」
彼女の手を握った時、春宮さんは私に強い眼差しを向けてくる
「…菜穂さん。このまま引き下がっちゃって悔しく無いの?」
「…そりゃ悔しいよ。だけど悔しさよりも今は逃げ出したい気持ちの方が強いんだ…」
「ーーーねえ菜穂さん」
「え?」
「辞めるのはもう少し保留にしてくれない?」
「……どうして?」
優しく、だけどどこか冷淡な笑みで彼女は言った
「…二人で協力して、今度は花井さんを懲らしめるの」
「…えっ!?」
佳純を…?懲らしめる?
……考えもしなかった
そもそも、仕返しというものがあまり好きじゃないんだ
やられた事をやり返したら、その人間と同じレベルまで落ちてしまうと思っているから
「いや、そういうのははちょっと…」
「…彼女は少し度が過ぎているわ。誰かがそれを思い知らせてやらないと、きっと取り返しがつかないところまで行くと思うの」
…いや
佳純はもう、行くところまで行ってしまっている
既に取り返しがつかない場所にまで、到達してる
「少し荒っぽい手を使わなければ彼女は目を覚まさないわ。そしてそれが出来るのは…菜穂さんだけよ」
「無理だよ…もう佳純は私なんて何とも思ってないんだから」
「それは違うわ菜穂さん…彼女の憎しみは貴方を想っていたからこそ湧いてくるの…その大きく歪んだ愛こそが、彼女の悪意を育んでいるのよ」
「…でも昔の佳純はそんな子じゃなかった。変わったのは…」
鳥谷さんのせい
ーーー恋が、佳純を変えてしまったんだ
「花井さんはね、菜穂さんを蹴落とす事で自分の中の劣等感を拭おうとしているの。少しでも貴方より優位に立つ為に貴方を弱者にしようとしているのね」
春宮さんのその言葉に、あの日の佳純の言葉が脳裏に浮かんだ
ーーー…私は、菜穂とは違う…
弱いから…自分を責められない
他人を責める事でしか自分を守れない…
だから私は菜穂を憎むしか出来ないんだよ
…だって翔介さんは…
私より菜穂を選んだんだから
ーーあの時……佳純はそう言っていた
だから春宮さんの言ってることは合ってる
けどそれだけじゃないんだ
ーーー私が欲しいものを何もかも持ってる菜穂に
何もかも奪っていく菜穂に!
っ私が…焦がれ続けて
ようやく手にした想いを!
何も知らずに全部奪い去る菜穂なんかに!わかるわけがない!!
………佳純は本気で私を恨んでいるんだよ
ハッキリ言って逆恨みもいいとこだけど
それくらい佳純にとって恋というものは
猛毒だったんだろう
そんな佳純を今更私が救うことなんて出来ないし、するつもりもない
だって佳純は私より鳥谷さんを選んだんだから
「もういいのよ春宮さん。私、佳純の事はもうどうでもいいと思ってるから」
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