黒に染まる

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ーーーー 「ただいま!」 「おかえり、佳純」 最愛の人が待つ最高の家 一日の疲れが全て吹き飛ぶ至福の瞬間だ 「先にお風呂入る?」 「いいの?」 「うん!その間に食事の準備しておくよ」 「気を遣わせてごめんなさい」 悄気る私の頭を撫でながら、翔介さんは微笑 んでくれる 「僕がしたくてやってる事だから」 「…ありがとう」 私はお言葉に甘えて颯爽とお風呂場へと駆け込む 入浴中も翔介さんのことだけしか思い浮かばない この場所にいる間だけはーー 私は普通の女の子に戻れるんだ もう一人の自分は、マンションの入り口に置き去りにしてきたんだ さっきまで自分の中にあったどす黒い感情が まるで嘘みたいに消え失せている …フフフ 鏡を見ながら、自然と笑みが溢れている自分に気が付く …今日は多分、するよね 気合を入れ直し、全身を隈なく洗う 久しぶりだもん 翔介さんだってその筈だよね 「お待たせ!」 「おかえり。ちょうど出来た所だよ。さあさ、座って」 お風呂から上がると、既にテーブルには綺麗なグラスと食器が並んでいた 「何か手伝えることある?」 「うーん、とりあえず今日は僕に全部させて欲しいな。ね?」 「…分かった。お願いします!」 私は聞き分けよく椅子に座り待つ事にした 「煮込みハンバーグなんだけど、大丈夫?」 「大好き!」 「良かった。口に合うかはわからないけど」 翔介さんが作ったものが口に合わない筈がないよ ウキウキしながら待つ私の目の前に肉汁溢れる美味しそうなハンバーグが現れる きちんと人参とインゲンもグラッセにされていて、盛り付けも料理店顔負けだった 「凄い…!美味しそう!」 「はは、味の保証はしないけどね」 「ワイン飲む?赤だけど」 「あ、いただきます」 グラスに深紅のワインが注がれる 目に映る全てが光を帯び、夢の中にいる感覚だった …ああ、幸せだな 「食べようか!」 「はい!いただきます!」 ナイフを入れ、熱々のハンバーグを口に運ぶ 「…美味しい」 本当に美味しい。翔介さんハンバーグ屋さん出来るんじゃない? 「良かった。少し練習したんだ。佳純に食べてもらう為に」 その言葉を聞き、涙を堪えるのに必死だった 「…嬉しい。私の事考えてくれてたんだ」 「…考えてたよ。ずっと、こんな時を過ごしたかった」 全部自分が悪いのにね。と自嘲気味に笑う翔介さんを見て、また涙腺が震えだす 「……私も」 ずっと この眩い時間の為に生きてきたんだ もう二度と失わないように頑張るから あんな辛い思いはもう二度と… 「あのさ」 「ん?」 「食べてる途中だけどいいかな?」 「…どうしたの?」 一体何の話だろう 真剣な表情の翔介さんに、私は思わず身構えた
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