黒に染まる

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「…美咲にも教えとかなきゃ!もしかしたら美咲も疑われてるかも知れないし」 「ですね…あ」 「おはよう」 今度は菜穂が、私と田宮さんの前を通りがかった 「おはよう菜穂」 菜穂は田宮さんを無視して私にだけ挨拶をした 勿論田宮さんも挨拶は全くせずに鋭い眼光で睨みつけていた 「あームカつく。本当早く辞めろって思うわ」 「今…」 「え?」 「あ、いえ。すみません!何でもないです」 「…?じゃあ花井さん!頑張ってあいつを懲らしめよう!また後でね!」 ガッツポーズしながらそう言い残し田宮さんは足早に去って行く 田宮さん、気付いてなかったんだ 菜穂が…笑っていた事に… まさか菜穂も何か企んでる? ……ーーーまさかね あの菜穂が私に何かしてくるわけがない なんだかんだで菜穂は私に非情にはなりきれないだろう 根っからのお人好しだからね 多分ただ強がって笑って見せただけ 全然気が乗らないけど約束だからね もう一度だけその笑顔を奪わせてもらう 「おはようさん。何ボーッと突っ立ってんだ」 背後から気配もなく近付き、私の頭に手を乗せてそう言ったのは月島さんだった 「おはようございます」 「そういやあ昨日早速かまされてたじゃねえか。あれ花井に向かって言ってたんだろ?」 やっぱり鋭いなこの人は… 「恐らくそうでしょうね、まあ私は身に覚えは無いですけど」 「覚えがないか…随分強かになったもんだな。昔は企画書一つ書けずに泣いてた奴が」 「関係ありますかそれ」 「だけどあいつ、何でお前を疑ってるんだろうな」 やっぱり月島さんも気になったんだ 月島さんは多分真相を知っている 知っている上で、私ではなく佐伯さんを裁いた 逆に言えば、社内で月島さん以外は知らないからこそ佐伯さんだけがクビになる形で事が収まった なのに何故、なんの面識も接点も無い開発部の人間が知ってるんだろうか 「だが見たところ…風見とは繋がりがあるみたいだな」 「友達だったんですかね」 確かに菜穂は他部署にも知り合いが多い 一方的に知られてる事の方が遥かに多いけど 何せ、華やかな容姿の女性はそれだけで人から覚えられるし何もせずとも人が寄ってくる まあその分嫉妬されるわけだけど… 「それより今日の夜飯行くか?」 あ… 「そういえば月島さんに言ってなかったですね」 「…何が?」 「私、翔介さんとまた付き合う事になったんです!」 「……えっ?」
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