黒に染まる

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「…そういえば私、ちょっと前に佐伯さんにデスクの鍵を隠されたんですよ。あれ地味に困ったんですよね」 「…同じ事を今度は風見さんにすると?」 「そうですね。ですので、鍵のある場所調べてもらっていいですか?」 「だから何故私が?」 「お願いします。本当に最後ですので…少し菜穂を困らせるだけで終わりにしますから」 「…わかりました。最後にして下さいね」 「ありがとうございます」 これで本当に最後だーー 適当に困らせて、後から見つけたふりをして私がカギを渡す ただそれだけ 田宮さんからしたら少し物足りないかもしれないけど 今の私は、これ以上酷いことをしようと思う気になれない 頭の中に浮かぶ翔介さんの笑顔が私を見張っている 汚れないように、清く正しくあるように その笑顔を失ってしまうのが怖いから… 真っ当な人間になるんだ 「鍵は菜穂さんのデスクの大きな引き出しの中に入れていますね。イルカのキーホルダーが付いていました」 「早いですね…」 数十分もしない内に春宮さんが私の元に報告に来た 「たまたま見えましたので」 …菜穂が鍵を引き出しに入れてる? あのしっかり者の菜穂がそんな不用心な真似するかな 私じゃあるまいし 「…見間違いじゃないですか?違う鍵かも知れないですよ」 「いえ、ちゃんと開けるところを見ていましたから間違いありません」 流石の菜穂も、ストレスで注意力が散漫になってるのか… 「……わかりました。ありがとうございます」 「では、私の出番はこれで終わりですね」 「ちなみにお昼は外で食べますよね?」 「…まあ、恐らくは」 「分かりました」 「…くれぐれも、私は関係ありませんのでよろしくお願いしますね」 と言いながら なんだかんだで協力してくれてますよね やっぱり貴方も歪んだ人間なんですよ、春宮さん 人が苦しむ姿を見る事に喜びを感じるんでしょ? 歪んだ自分を満たすためだけに その労力を惜しまない でも私は春宮さんとは違う 嫉妬心に駆り立てられただけだ。そんな性癖持ち合わせていない 貴方は所詮、翔介さんには相応しくない 汚く醜い人間は彼の隣に立つ資格は無いんだよ、春宮さん
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