黒に染まる

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ーーー 昼休みになると、春宮さんは菜穂を連れて外へと出て行く 私はまず一番の懸念材料である雪村の存在を探る だけど …あれ?いない? オフィス内を見渡しても雪村の姿は無かった 外か食堂?まあいいか いないならこちらからすれば好都合だ 戻って来ないうちに済ませてしまおう 昼休みが始まった今が最も皆の動きが大きい その隙に動くのが、一番安全だ 私は素早く菜穂のデスクへと向かい、春宮さんが言っていた真ん中の引き出しを開ける 彼女の言葉通り、確かに引き出しの中にはイルカのキーホルダーがついた鍵が置かれていた 本当に置いてる… 菜穂も随分ズボラな性格になったな 昔は… 私が鍵をデスクの上に置いているのをよく叱った癖にーーー ーー佳純、鍵はちゃんと肌身離さず持っておかないと!誰かに盗られちゃうよ! ーー…ハハ、すぐ使うから一回一回しまうのが面倒になっちゃって…そこまで大事な物入れてないしさ ーーそれでもだよ!癖付けとく事が大事なの!ね! ーーわかったよお ーー…わかればよし!! ーーー ……まるで前世かと思えるくらいに遠い記憶だな… 記憶の渦に呑まれハッと我に帰った私は急いで鍵をポケットに忍ばせて自分のデスクへと戻る 昼が始まったら菜穂は鍵をなくした事に気付いてオロオロし始めるだろう 後は菜穂が課長に鍵の紛失を申し出たタイミングで私が出ていき、更衣室に落ちていたとでも言えばいい それならあの男も私に文句のつけようがないだろう そうこうしてたらお昼終わっちゃうな…私も何か食べに行こう …考えてみれば ついこないだまで皆でランチに行ってたりしてたのに 今はもうバラバラだな 佐伯さんはいなくなったし。まあいなくていいけど 月島さんも今日は誰かと食事に行ってるみたいだし …元凶は自分なのに、私は何をバカなことを考えているのか
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