燃ゆる悪

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エレベーターを降りてから、月島さんは全然話さなかった 電車の中でも会話を交わすこともなく、私達は無言で窓の風景を見続けていた 別れ際になると一言だけ 「また明日な…」 そう漏らしフラリと電車から降りて行く 「…お疲れ様です。今日はありがとうございました」 背を向けたまま手で挨拶を交わし、月島さんは改札を抜け宵闇に消えていった ……月島さんはこんな私をずっと想ってくれている 私のどこがいいんだろうか 思えばあの人には入社してから迷惑しかかけてない …私の教育係だったからか、殆どのミスは月島さんがカバーしてくれた 厳しく叱られる時もあり正直苦手な人だと思った事もあった だけど… 私が頑張って成果を上げた時、自分の事のように喜びながら飲みに連れていってくれた時 「頑張れば結果はついてくるんだよ。な!」 この人は信頼出来る人だと、苦手意識は完全に無くなり逆に尊敬できる人になった 私が今までこの会社で頑張れていたのは正直、月島さんの力によるものが大きい 本当に感謝してもしきれないくらいの借りがある そんな月島さんを私は裏切り陥れた 最低な女だって自分でも思ってる なのにそれでもまだ彼は ーーー…割り切れるわけ…ねえだろ… あんなにも消え入りそうな声になるくらい、私に気持ちを向けてくれてる その想いに応える事はできないけれど いくら非情な私でも、何かしらで返すことができないかと少しは考える その反面、その想いに安心してる自分もいる この先私が孤独な立場に置かれたとしても 月島さんなら助けてくれると、そう思わせてくれるから そして…いざとなればその想いすら利用しようという狡猾な自分が、矛盾した心を押し殺す …いつか 月島さんに他に好きな人が出来て…私のことなんてどうでも良くなった時に 改めてお礼を言います… だから今はまだ、こんな私を許して下さいーーー ーーーー 轟音と共に降り立った一機の飛行機から出てきた彼は ターミナルに着くなり携帯を手に一本の電話をかける 「俺だ、今羽田に着いた。そちらに向かう前に、とりあえずは…あいつの家に向かう」 電話口に向かって、威圧的な口調でそう話すと 決して喜びではない笑顔を浮かべて言った 「フッ、早く可愛い弟の顔を見たいからな」
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