燃ゆる悪

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ーーー 「ただいま翔介さん!仕事長引いちゃってごめん!」 「おかえり、大丈夫?」 「うん!大丈夫!急いでご飯作るね!」 「先にお風呂入ったら?ご飯はゆっくりでもいいしさ」 「あ、じゃあそうさせてもらおうかな」 「うん!」 翔介さんの前では、この空間の中では私は聖女にだってなってみせる 外界での穢れは全てマンションのエントランスで削ぎ落としてきたんだ 翔介さんに少しでも会社での事を悟られるわけにはいかない 会社での花井佳純とここでの花井佳純は、完全なる別人なんだからーー 「ありがとう。さっぱりしたよ」 お風呂から上がり、髪を乾かすと私はすぐに料理に取り掛かった 「ごめんね佳純。帰ってきてすぐに忙しなくさせちゃって」 「本当に大丈夫だよ!全然疲れてないしさ」 「何かできる事があるなら手伝うよ」 「んーん。今日は座っててー」 私は笑顔で翔介さんにそう言った 「じゃあ、お言葉に甘えるね」 翔介さんは座ってテレビを見始める 無理なんてしてないよ翔介さん 私はその後ろ姿を見るだけで、活力が湧いてくるんだ どんなに疲れてても嫌な事があっても 翔介さんの為になるなら全く苦にならない これが愛ってやつなんだろうなあ… 「お待たせー!今日はね、長芋のふわとろ焼きと蓮根の挟み揚げと茄子の煮浸しです」 私が食卓に並べた料理を翔介さんは目を輝かせて見ている 「凄いな佳純は。何でも作れるんだな…」 「料理本見ながらだよ。全然まだまだなの」 「こんないいお嫁さんなかなかいないな…」 もうお嫁さんだなんて 翔介さんたら…気が早いよ でも嬉しい… 「それじゃ、いただきます」 蓮根の挟み揚げを口に運ぶ翔介さんをマジマジと見ながら私は尋ねる 「…どうかな?」 「…美味しい。佳純、お店出せるんじゃないか?」 「そんなの無理だよ!!」 「いや、本当に美味しい。この煮浸しも最高だよ」 頑張って練習した甲斐があった… 次々に箸が進む翔介さんを見て私は嬉しくてたまらなかった 「…あのさ、佳純」 「ん?」 「実はさ…」 翔介さんが何かを言いかけた時 突然チャイムが鳴った 「…誰だろう」 私がそう呟くと、翔介さんはその人物がわかっているかのように言った 「…もう来たのか」 「え…?」 鍵を開ける前に、その人はすでに玄関に立っていた そう…それは私にとってまるで災厄のような存在 「久しぶりだな…翔介」 「…兄さん」 ーー暴君、鳥谷竣介だった
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