燃ゆる悪

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「ずっとずっと、私の心の拠り所は佳純だけだった。佳純がいなければ今の私はいなかったんだよ…どんな時でも佳純がいたから私は強くいられたんだ」 「私には無いものいっぱい持ってるんだよ、佳純は。それなのに卑屈になってこんな真似するなんて…本当に馬鹿だよ…佳純は」 「…風見」 「なあ花…井ーー?」 気がつけば私の頬にも涙が伝っていた 本当は全部分かってる 何一つ得るものは無いことを 失っていくばっかりなんだ だけど止められなかった もうどこにもブレーキなんて無かったから この悪意は突き進めるしか無かった そう思っていたのに、なのに どうしてこんなに心がざわつくんだ… 「なあ花井。お前は今回風見にやり返されてムカついてるかも知れねえ。だけどもうこの辺で終わりにしたらどうだ?辞めるなら今しか無いぜ」 「僕もそう思う…僕にならいくらでも攻撃しても構わない。腹立ってるだろうしね でも、風見さんとの確執はここで終わりにするべきだと思う。第三者が介入してる今がその唯一のチャンスだろ」 今が…チャンス… 確かに こいつの言う通りだ… 私は意地になっているだけなのかも知れない 手に入れたかったものは手に入ったんだ 私だってもう幸せを手にすることができる筈だ それなら… 「じゃあーー」 「お待たせしましたー!」 ーーー発言しようとした瞬間に、店員さんが蕎麦を運んできて私の言葉は遮られる 「大盛りといなりの方はー」 「あ、俺です」 「こちらおろし蕎麦になります」 「…ありがとうございます」 「お二方はざる蕎麦ですね」 「…はい」 「以上でお揃いでしょうか?」 「大丈夫です」 「ごゆっくりどうぞー」 配膳を済ませ、笑顔で店員さんが去って行く 束の間の沈黙の後、再び月島さんが口を開いた 「…タイミング悪かったな。で、さっきなんてーー」 「「ズズズズー!!」」 「え?」 私は音も気にせず無心で蕎麦を啜った 「は、花井…?」 三人は一気に蕎麦を啜る私を見て自分の蕎麦にも手をつけずに呆然としている 「…ふう」 まだ誰一人蕎麦に箸をつけてもいないというのに、私の前には既に空になったざるしか残っていなかった 「…ご馳走様でした。お金は置いておきます。仕事残ってますので先に行きます」 私は千円札を机に置き、立ち上がった 「…お、おい…」 「ではごゆっくり」 「佳純!!」 去ろうとした私に菜穂が叫ぶ 「…さっき、何を言おうとしてたのか教えて」 私の目を見つめ、語気を強めて菜穂は問い質してきた 「…菜穂は私を許せるの?」 やっと絞り出せた言葉はそれだけだった 「…それは佳純次第だよ」 「菜穂は…お人好しだね」 「そう訊くって事は…もう終わりにするって事?」 雪村が私に問う 私はそれ以上何も言わずその場を後にした
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