望み

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ーーーー 「あーっ!!!」 家に着いた私は叫びながらボフッ!とベッドに飛び込み、起きているのに夢の中にいるような感覚に陥っていた まだ頭に焼き付いている 彼の笑顔が…声が…そして、最後の言葉が 店を出て駅へ向かう彼は、クルリと振り返り、去り際に私にこう言った ーー花井さん あの時断ったの、間違いだったかも ………ぁあああああー! 枕に顔を埋め私は雄叫びを上げる きっと嘘なんだと頭はわかっている 私を懐柔しようとして言ってるだけだと でも、淡い期待が押し寄せて止まらない もし…嘘ならどうしよう…彼が でまかせばかりを言ってたとしたら 私は今のままじゃきっと彼を警察に突き出す事なんて出来ない 早く菜穂に会いたい…会って、何もかもを詳らかにしたい このモヤモヤを消し去りたい… 我慢出来なくなった私は携帯を手に取り菜穂に電話をかけた 呼び出し音がこだまする やっぱり菜穂…出ないな… 明日もし会社に来なかったら、家まで行ってみよう 私は携帯を置き、お風呂に入ることにした お風呂の中でも、私は鼻歌を歌っていた 今日は…色んな感情が表れる日だ 声をかけられた時、この上無い喜びを感じた カミングアウトされた時、激しい怒りにまみれた 菜穂の過去を知った時、悲しくなった 連絡先を訊かれた時、今まで味わったことのない高揚感に包まれた 生まれてきて、こんなに感情が露わになったのは初めてかもしれない 昔からどこか冷めてるところがあると人によく言われてきた でも彼に出会って、自分の中にこんなにも豊かな感情が眠っていたんだと…思い知らせてくれた 私は頭を洗いながら自分の中である一つの結論に達した もう彼以上に誰かを好きになることはないーー ふと鏡を見ると… 胸がざわついた 見たことのない自分が、見たことのない顔で…笑っている気がした
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