望み

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翌朝目を覚ますと、菜穂はもう家を出ていた 理由はすぐにわかった 電車の時間をズラす為だ 会う可能性があるから… ーー私はいてもたってもいられなくなり、鳥谷さんに連絡を入れた 「ーー今日の朝、少し時間ありますか?」 その文面だけを打ちSNSで送信した 今日はいつもよりかなり早く起きたから少しだけ時間が取れそう 向こう次第だけど… 待っていると返事はすぐにきた 「ーー大丈夫だよ。どうしたの?」 「カフェ『テグロフ』を知ってますか?」 テグロフは彼の乗る駅の構内にあるカフェだ。恐らく知っているだろう 「分かるよ。そこに行けばいい?」 「7時半に来れますか?」 「了解」の二文字が送られてきた 私はそれを見て気合を入れて身支度を始めた ーーーー 「いらっしゃいませ」 入り口の鐘が鳴ると同時に店員さんの声が私を迎えてくれた アンティークな雰囲気を醸し出した店内は、お洒落なシーリングファンが時を飛躍させるように忙しなく回っていた 鳥谷さんはまだ着いていないみたい… 私は一番奥の端の席に座り彼が来るのを待った 数分後また入り口の鐘が鳴り、私はその方を向いた 片手を上げ合図しながら鳥谷さんが入り口から歩いてくる それを見ただけで私の心臓はギュッと締め付けられた 「ごめん、待ったかな…」 「全然待ってません!大丈夫です!」 「良かった。今日仕事だよね?」 「はい。鳥谷さんもですよね?」 「うん。でもまだまだ時間あるから」 スーツ姿で、腕時計をチラリと確認し彼は言った その姿があまりに様になっていて、私は思わず赤面してしまった 「僕はコーヒーをホットで。花井さんはどうする?」 知らない間に彼は店員さんを呼んでいた 「えっとじゃあ…同じで」 何も考えず同じ物を頼んでしまう 「…風見に何か訊いた?」 何かを窺っているのか?とも思い顔を見るが、そんな様子ではなかった 私は正直に、昨日の話をすることにした 「…鳥谷さん。私にまだ何か言ってないことありませんか?」 「…隠してること?いや、昨日全て話したとおりだけど」 「本当にですか!?本当に何も隠してませんか?!」 「ど、どうしたの?何もないよ…」 そう…なんだ… じゃあ、彼は知らないんだ 自分のせいで菜穂が不登校になったことを 「昨日菜穂から訊いたんですよ」 「…何を?」 「…菜穂は聞いてしまったらしいんですよ。あなたが昔、クラスの皆の前で菜穂の悪口を言ってたのを」 私の言葉に、鳥谷さんは大きく目を見開いた やっぱり知らなかったんだな… 「…風見が…どうして…」 「菜穂は一度、部活を辞めてからあなたの教室に行ったらしいんです。その時にたまたま…聞いてしまったと」 「…まさかあの時…まさかあのタイミングで…?ハハ、偶然にしちゃ…ちょっと出来過ぎだな」
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