望み

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ああ、そうか この人は…もう覚悟しているんだ 自分の人生を投げ打ってでもそうすると、この10年の月日の中で…そう決めたんだ なら私が介入する余地なんて…どこにもないんだ 心のさざ波が引いていく音がした 同時に、何故か怒りも悲しみも私の中から綺麗に霧散していた 「…だから僕は、君の選択によって自分の意志を曲げるつもりはないし、どうあろうとその結果を受け入れるつもりだよ…例え通報されても…」 強い… あまりにも強い覚悟… 決して揺らがない世界に、彼は立っている ーーいつの間にか出されていたコーヒーは、いつの間にか冷め切っていた 私はそれを一気に飲み干して、言った 「通報は…しません」 「え…?」 私にはもう出来ない。そんな事…絶対に 「…ありがとう。助かるよ」 「…っ!」 幽かに笑う顔に、私は哀しみを感じた 孤独に佇んでるかのような 遠い距離感と、厚い隔たり 生きる世界が違うんだと 突き放されたような感覚がした 「だから」 私は自らの意思とは関係なく 「私も、あなたと同じ世界に…行きたい」 その言葉を口にしていた 「…どういう…」 「私もっ!」 もう人目も気にせず声を張り上げた 「私にも…協力させてください!あなたに!」 この人の佇む世界へ ほんの僅かでも近付きたい もう望みがないのなら… それが私のーーー せめてもの 望み ーー私はこの日、最も大切な唯一無二の友人を 裏切る決意をしてしまったーーー
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