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そんな人に…菜穂の家を付け回させて大丈夫なのかという思いがあったが、私はそれを口にしなかった
「…そろそろ仕事だから行かなきゃ…」
「あの…写真…」
「え?」
立ち上がりお盆を取ろうとする彼を、私は引き止めた
「まだ撮れてないんですよね?写真…私、撮ります」
写真くらいなら…いいよね……
「え!?本当に!?」
彼の表情は一瞬にして曇り空が晴れたように明るくなった
その顔を見て不意にときめいてしまう…
ああ…この顔は反則…
「ありがとう。花井さん。本当、君には感謝してる」
甘美な言葉に惑わされる
自分は愚かじゃないと、今まで言い聞かせてきたけどーー
多分私は、そういうタチらしい……
彼は早々に二人分の会計を済まし、私に手を振りながら店を出た
多分私の天秤は、もう壊れてしまってる
正義も悪も…あの笑顔の前では何の重みも無くなる
怖い、のめり込んだら…私はーーー
ーーーー
「あのさ、菜穂」
「ん?」
「今日は私が菜穂の家に泊まりに行っていい?たまには誰かの家に行ってみたくて」
「え?いいの?」
「逆にお願いしたいの」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
菜穂は深々と頭を下げた
「こちらこそだよ」
互いに声に明るさが宿り、昨日の気まずさはもう無くなっていた
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