7/9
215人が本棚に入れています
本棚に追加
/549ページ
「あまり無理しないでよ…」 「へへ、ごめん。もう大丈夫だから」 トイレから出た私はエスプレッソに口をつけながら言った 「あ、美味しい…」 エスプレッソの一番の理想の淹れ方は、三層に綺麗に分かれるような淹れ方だとされているらしい 確かクレマとボディとハートだったっけ…菜穂の淹れるエスプレッソはそれがかなり完璧に近い 高級なマシンにいい豆を使っている辺り、菜穂のこだわりが窺える 「ほんといつも美味しいね。菜穂のエスプレッソ」 「これだけは絶対妥協しないからね!私、今の仕事してなかったら多分カフェしてたかも…」 「ほぇー。カフェかぁ。菜穂なら絶対成功するよ!まずその見た目でお客さんわんさか来るしね」 「変なおじさんばっかり来たらどうするのよ」 笑いながらそう答える菜穂 おじさんより若い子の方が来ると思うけど… 「あ、先にピザ頼んじゃおっか。来るまで時間かかるし」 「だね」 そう言った瞬間、私の携帯に一本の着信が入った 誰だろ… 「…あ」 私は静かに電話を切った 「どしたの…?」 変なところから声が出たせいで、菜穂が不思議に思い尋ねてきた 「あ、いや…お母さんから電話があって…」 「掛け直したら?」 違うの… お母さんじゃないの… その通知は、鳥谷さんからだった 「ちょっと外で掛けてくるね」 「え?ここで掛けたらいいよ。私黙ってるし」 そんなわけにはいかないよ… 「お母さん最近耳遠くなって声がおっきくてうるさいから恥ずかしいの。外行くね」 わけのわからない理屈だけど、他にいい言い訳が思いつかなかった お母さんごめん… 「まあ歳取ると仕方ないよね。了解」 「あ、良かったらピザ頼んでて」 「わかった。いつもの5種のチーズのやつと辛いやつでいい?」 「うんっ!お願い」 私は菜穂に嘘をついて外に出る その足で鳥谷さんに電話を掛ける
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!