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店内は机も壁もまだ真新しい小洒落た感じの和食屋さんだった
適当に飲み物と食べ物を頼み、彼は先程の話へと戻った
「話を戻そうか」
おしぼりで手を拭きながら、鳥谷さんが言う
「…さっき、まともでいたくない自分がいるって言ったの覚えてる?」
「…はい」
「きっとそれが、僕の最初の歪みだったんだ。完璧な人間を演じる中で…雁字搦めの自分がいる中で…僕は…風見の事を想っているつもりで、彼女をストーキングし始めた」
「その背徳感が…僕を閉じ込めていた何かから解放したんだーーー」
……私は
その言葉に思わず背筋を凍らせた
いや、言葉よりも…平然を装う彼から不意に溢れたーー恍惚の表情
それは確かに、歪んだ人間にしか出せない顔だった
「風見を追うほどに、知れば知るほどに、自分が自分じゃ無くなるほどの快感と幸福感で満たされていった。いつしか風見の事情などどうでもよくなるくらい、自分の欲望の為だけに動き続けた」
「…菜穂が苦しんでもいいって意味ですか?」
「違う」
「止められないんだ。もう…ブレーキが壊れてしまったんだよ」
そうか…例えるなら
この人は
ストーカー依存症なんだ…
菜穂を追い続けなければいられない…普通じゃない精神になってしまったんだ…
「なんでそんな話を私にしたんですか…?」
私は菜穂の気持ちを慮るよりも、菜穂への羨望が勝ってしまっていた
この人をこんなにまで狂わせてしまう菜穂が
羨ましくて仕方なかった
「…花井さんなら理解してくれると思ったから。舐めてるわけでも見くびってるわけでもなくて…花井さんはわかってくれると、そう思ったんだ」
「…なんでそう思ったんですか…私が、私が…鳥谷さんを好きだからですか?」
「ううん。僕らは、多分似てると思ったから」
「似て…ますか?」
「こんな人間だからか…わかるんだよ。同じ種類の人間っていうのが」
ーー私は全てを、見透かされた気がした
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