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猛スピードで仕事を終わらせた私は猛スピードで帰り支度をして会社を後にしようとした 「ではお先に失礼します!お疲れ様でした!」 「お、おぉ…何だ?そんなに早く風見に会いてえのか?」 「えっ…と…いや、今日はちょっと用事が入ったので…」 笑いながらそう言ってきた月島さんに私は罪悪感に襲われ、困惑気味に返した 「あ、そうなんか。なら仕方ねえな!お疲れ」 「はい…失礼します」 逃げ出すように会社を出た私は…早く全てを忘れようと彼の元へと駆けた テグロフに着くと、先に仕事を終えた翔介さんが待っていた 「お疲れ。どしたの?汗かいてるけど」 「お疲れ様…ちょっと、急いじゃって…」 スーツの上着を脱ぎ椅子に腰掛けコーヒーを飲む彼は、映画のワンシーンのように様になっていた 「ハハッ、ゆっくりで良かったのに」 「…あの…早く会いたかったから…」 恥ずかしさを押し込めて私は言う 「…ありがとう。そういうところ、良いよね」 その言葉に、頭から湯気が立ち上っている気がした… 駄目…、顔が直視出来ないよ… 「折角だし何か飲んで行こうか。僕だけだと悪いしね」 「あっ、と。じゃあ…そうします」 私は椅子に座り、店員さんにアイスコーヒーを注文した 「昨日は楽しかったね」 そう翔介さんが切り出した 「凄く楽しかったです…あ、楽しかった」 昨日、私達は二人で映画へ出かけた後一緒にショッピングをしていた 私にとって人生初めてのデートは、刺激が強すぎて体に悪いくらいだった 彼の一言一句、一挙手一投足が私の五感をくすぐり続けた 「敬語、禁止だよ?」 昨日私達はお互いに敬語を使わないことを決め事とした 「まだ慣れないよ…」 「慣れていこうよ。ゆっくりね」 「うん…」 「ちなみに今日、菜穂仕事休んでたよ」 「そうなんだ…何かあったのかな」 彼が伏せ目がちに物思いに耽る 「……あ、明日もし来なかったら家に行ってみるね」 「うん。また教えてね」 「うん!」 明るく答えるものの、私の心境はやはり穏やかではない でも…この道を選んだのは自分自身だし仕方ない…か 「あっ!昨日渡しそびれてたんだけど…これ」 私は鞄の中に入れっぱなしだった菜穂の家の写真を彼に渡す 「ああ!ありがとう…!無理言ってごめんね…」 優しく微笑む翔介さん その笑顔を見たら…どんなお願いだって訊いてしまいそう… 例え心がここに無かったとしても…その笑顔が見られるなら…
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