愛憎

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絶景 そう呼ぶに相応しい景色が、大きく視界の開けたガラス張りの窓から広がっていた 「うわぁ…テレビみたい…」 街並みを眼下にしたその風景を、窓に手をつけ私は引きこまれるように見ていた 「最初は感動したんだけどね…3日くらいで飽きてくるよ」 翔介さんが笑いながら言った 「そんなことないよ!出来ることなら毎日見たい!」 あれ、この言葉は少し違う意味で捉えられるかな… 「そんなに気に入ったなら、いつでも見に来てよ。佳純なら歓迎だよ」 私は唇を尖らせながら恥ずかしさを噛み締めた 「なら毎日仕事の後来たいな…」 ジッと彼を見つめ、言ってやった 「佳純が疲れてないのなら」 私の頭に優しく触れ、そう言ってくれた 顔が火照り、現実か夢かもわからなくなりそうだった 「落ち着いたら座って。インスタントしかないけど、コーヒー淹れるね」 白いソファーと白いローテーブル これもまた高そうだなぁ… 「お洒落すぎるね…なにもかも」 「そうかな。無難な色が好きなだけなんだけどね…」 無難な色を選んでても、センスが滲み出てるんだろうな… 他の棚や照明も、シンプルなのに程良い存在感を放っている 家具屋さんのショールームよりも綺麗な部屋だ 私の部屋とは…本当に大違い…帰ったらせめて片付けくらいしよう… そしてフカフカのソファーはお尻が深く沈んでゆく程柔らかく立ち上がりたく無くなる位だった 「こんなところで暮らせたら、家から出たくなくなるね」 「…そうかな。窮屈になってくるかもね」 そう言いながら彼はコーヒーの入ったマグカップをテーブルに置いた 「いただきます。窮屈なの?」 「どうぞ。あんまり家にはいたくないんだよね」 「…どうして?」 私はコーヒーを啜りながら尋ねる 「……どうして…かな。この家が自分で買った家じゃないからかも」 「…お父さんと…仲悪いの?」 何故か、そんな気がしてしまった だけどすぐに覆された 「いや、父とは仲が良いよ。食事も良く行くし僕の意見もしっかり聞いてくれるしね」 これ以上は踏み込まない方がいいのか、私は黙って様子を見ることにした 「…本当はわかってるんだ。その理由も」 そう言いながら彼は、立ち上がり私を手招きした
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