愛憎

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彼は廊下に私を連れて行くと、真っ黒な扉の前に立たせた 「これを佳純に見て欲しくて呼んだんだ」 「え…?」 何だろ… 私はドキドキしながら扉の中を想像した 彼はドアに掛けられていた鍵を開け、ドアノブを回す そうーーー ーーー薄々、予感はあった ひょっとしたらそれは私へのサプライズかな。とか 微かな希望を手繰ったりもしたけど 心のどこかでわかっていたんだ 私が待っている未来は、私が予想している未来とは全く違うということを 「…佳純にしか見せられないよ」 その部屋にはーー 夥しい量の写真が壁中に貼り付けられていた そう、全ては… 菜穂の写真だ それを見て私は戦慄したーー 「さっき、女の子を連れ込まないのかって訊いてたよね?」 「…これがその理由」 わざわざ丁寧にドアに鍵までしてあったのだ それは連れ込んだ女の子に部屋を見られるという心配があるからではないだろう 彼は、きっとわかっていた 自らの持つ、異端 他を寄せ付けない…圧倒的な歪みを 「家に居たくないのは…多分、無意識に避けているんだと思う こんな立派な家を買ってくれた父への罪悪感が…僕のこの歪みとまた別のところで働いているんだ こんな狂った子供を持った父に…申し訳無い気持ちでいっぱいなんだよ…」 だけど… 「それでも僕は、ストーカーを辞められなかった」 翔介さんは、伏し目がちにそう告げた 部屋中見渡すと、写真だけでなく菜穂の私物らしきものまでコレクションしてあった シャツやペン、髪留めやお箸まで… よくまあこれだけ集められたなと感心するレベルだ 同時に、強烈な実感が湧き上がって来る 彼は紛れもなく、正真正銘の犯罪者だということにーー 「…盗んだの?これ」 「…そういうものもある。捨ててたやつも…」 「何で私にこれを見せようと思ったの…?」 バカみたいに、翔介さんの家に行けることに舞い上がり勝負下着なんか選んだりしていた昨日の夜の自分を殴りたい気持ちだった 「佳純には、全部知って欲しいんだ。僕の歪みを…全部」 「…見せられるのは世界で佳純だけだ」 「…でも…見たくなかっーー」 そう言うと 不意打ちのように 彼は私を強く抱き締めた 「しょ…」 そして彼は 私の口を塞ぐように、強引にキスをした 「ん…んん…っ!」 私はいろんな気持ちがグルグルと頭を巡りながらも、その快感に蕩けていた ほんの数秒だったと思う。けど数分にも思えたその時間を終えると、彼はゆっくり私を引き離し真っ直ぐに目を見て言った 「佳純がこの歪みごと愛してくれるなら…僕ももっと…佳純を愛すると約束する」 ああ…本当…非道いな こんな部屋見せて、こんなふうにキスまでして ここまでお膳立てされたら…選択肢なんてあるわけがないーー 残酷すぎるよ…翔介さん…
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