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ーーー
その日から私は、より翔介さんのストーカー行為に協力的になっていった
会社で菜穂と二人で談笑してる時でも、何か収穫がないかと探すようになった…
「あ、佳純ごめんちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、行ってらっしゃい」
そう菜穂を見送った瞬間、菜穂の飲んでいたグラスのストローを取り鞄の中に隠す
そして新しいストローを店員さんに頼んで菜穂のグラスに差した
何でもない顔をして、菜穂には決してバレないように
「あ、菜穂リップ持ってる?ちょっと今日忘れちゃって…」
「あるよ。はい」
「ありがとう!明日新しいの買って返すね」
「えっ?今使うんじゃないの?」
「あっ…ちょっと今日一日貸してて欲しいんだ…最近乾燥激しくて…」
「あ、そういうことならいいよ!家に新しいのあるからそれあげるね」
「ありがとう、ごめんね」
笑顔で返す菜穂に胸を痛めながらも
「ごめん菜穂…ミラー貸して欲しい…」
「菜穂…ハンカチ持ってる…?洗って返すから…ごめんね」
「菜穂コーヒー冷めてるから新しいの淹れてくるね」
どんどん菜穂の私物や使い終えた物をくすねていった
ーーー
「…佳純、最近ちょっと忘れ物とか多くない?前はそんなにしてなかったよね?」
「え!そ、そうかな!?」
ある朝、突然更衣室で菜穂がそう言ってきた
「それに何だか気遣いも不自然に増えた気がするし…何だか別人みたい」
「…最近ちょっと寝不足なんだよね…ごめん。それに、彼に言われちゃって…もっと人に気を遣った方がいいよって…」
少し疑ってる様子で話す菜穂に、取り繕うように弁明する
「…鳥谷さん?そんな事言って来るんだ…」
言われてないけど…
「あ、でも鳥谷さんは私の為を思って言ってくれてるからさ!」
何故か菜穂の前では翔介さんとは呼べなかった
やっぱり私の中で後ろめたさがあるからだろうな…
「…今度、会ってみようかな」
「…え!?」
菜穂が!?翔介さんに!?
目を丸くした私の顔を見て、菜穂はロッカーの扉に顔を隠しながら話を続けた
「出来る事ならもう一生会わないようにしたかったけど…佳純が信じてる人なら…私も少しだけ知ってみようかなと思って。今の彼を」
「…でも顔を見るだけで辛くなるんじゃ…」
「辛いけど…さ。私はそれ以上に、佳純に救われたから…そんな佳純が好きになった人っていうことは…それはもしかしたら神様がくれた許す機会なのかも…とか思っちゃったりもしてさ!」
菜穂は作り笑いのように懸命に笑っていた
やっぱり菜穂も傷を治したかったんだな…
「菜穂…」
私は精一杯菜穂の手を握り締めながら返した
「菜穂には無理して欲しくないけど、菜穂が未来に歩き出せるならそれが一番いいと思う…だから頑張ろう!今の彼を知ったら多分、菜穂の傷も癒えるよ!」
「佳純…ありがと…ーー」
この時私は二重人格かと思える程に、心が穏やかだった
私はもう
取り返しのつかないところまで狂っているのかも知れないーー
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