愛憎

6/16

215人が本棚に入れています
本棚に追加
/549ページ
ーーー その日から私は、より翔介さんのストーカー行為に協力的になっていった 会社で菜穂と二人で談笑してる時でも、何か収穫がないかと探すようになった… 「あ、佳純ごめんちょっとトイレ行ってくるね」 「あ、行ってらっしゃい」 そう菜穂を見送った瞬間、菜穂の飲んでいたグラスのストローを取り鞄の中に隠す そして新しいストローを店員さんに頼んで菜穂のグラスに差した 何でもない顔をして、菜穂には決してバレないように 「あ、菜穂リップ持ってる?ちょっと今日忘れちゃって…」 「あるよ。はい」 「ありがとう!明日新しいの買って返すね」 「えっ?今使うんじゃないの?」 「あっ…ちょっと今日一日貸してて欲しいんだ…最近乾燥激しくて…」 「あ、そういうことならいいよ!家に新しいのあるからそれあげるね」 「ありがとう、ごめんね」 笑顔で返す菜穂に胸を痛めながらも 「ごめん菜穂…ミラー貸して欲しい…」 「菜穂…ハンカチ持ってる…?洗って返すから…ごめんね」 「菜穂コーヒー冷めてるから新しいの淹れてくるね」 どんどん菜穂の私物や使い終えた物をくすねていった ーーー 「…佳純、最近ちょっと忘れ物とか多くない?前はそんなにしてなかったよね?」 「え!そ、そうかな!?」 ある朝、突然更衣室で菜穂がそう言ってきた 「それに何だか気遣いも不自然に増えた気がするし…何だか別人みたい」 「…最近ちょっと寝不足なんだよね…ごめん。それに、彼に言われちゃって…もっと人に気を遣った方がいいよって…」 少し疑ってる様子で話す菜穂に、取り繕うように弁明する 「…鳥谷さん?そんな事言って来るんだ…」 言われてないけど… 「あ、でも鳥谷さんは私の為を思って言ってくれてるからさ!」 何故か菜穂の前では翔介さんとは呼べなかった やっぱり私の中で後ろめたさがあるからだろうな… 「…今度、会ってみようかな」 「…え!?」 菜穂が!?翔介さんに!? 目を丸くした私の顔を見て、菜穂はロッカーの扉に顔を隠しながら話を続けた 「出来る事ならもう一生会わないようにしたかったけど…佳純が信じてる人なら…私も少しだけ知ってみようかなと思って。今の彼を」 「…でも顔を見るだけで辛くなるんじゃ…」 「辛いけど…さ。私はそれ以上に、佳純に救われたから…そんな佳純が好きになった人っていうことは…それはもしかしたら神様がくれた許す機会なのかも…とか思っちゃったりもしてさ!」 菜穂は作り笑いのように懸命に笑っていた やっぱり菜穂も傷を治したかったんだな… 「菜穂…」 私は精一杯菜穂の手を握り締めながら返した 「菜穂には無理して欲しくないけど、菜穂が未来に歩き出せるならそれが一番いいと思う…だから頑張ろう!今の彼を知ったら多分、菜穂の傷も癒えるよ!」 「佳純…ありがと…ーー」 この時私は二重人格かと思える程に、心が穏やかだった 私はもう 取り返しのつかないところまで狂っているのかも知れないーー
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加